愛の唄 【Fate/GrandOrder 天草四郎】
第3章 愛の唄 Ⅱ
「……そっか。元気になってくれて、良かったよ。ご馳走なんて用意できなかったし、狭い部屋だったけど、それでも元気になってくれて、良かった。どうする? 朝ご飯だけ、食べていく? 昨日と同じインスタントの味噌汁と、ご飯と、あとは作り置きのおかずぐらいしか、出せないけど。」
「……ありがとうございます。それでは、そのご厚意に甘えてもいいですか?」
そうして、“天草四郎”を名乗る彼と私の、最後の食事が始まって、それはあっという間に終わった。迷ったけれど、送り出すときに、私の携帯端末の連絡先を書いたメモと、数千円を渡しておいた。本当は、見ず知らずの相手に、ここまでする理由も無いけれど、もしもまた、あんな風に行き倒れになるのではないかと思うと、そうせずにはいられなかった。最初は、彼も丁重に断ろうとしていたけれど、半ば押し付けられるように渡されたそれを断りきることも出来ず、諦めたように懐へ収めた。「落ち着いたら、お金は必ず返します」と言って、彼は陽だまりの中へ消えていった。
私は、また明日から、仕事だ。
非日常は、繰り返される日常に上書きされるようにして、遠い記憶へ押しやられていった。
それから、1か月が経ったけれど、あれから彼の姿を見ることは、いちどとして無かった。