愛の唄 【Fate/GrandOrder 天草四郎】
第3章 愛の唄 Ⅱ
「えぇ……?」
正直、目の前の彼が、何を言っているのか、全く理解できない。
「じゃあ、あの……、体の、たくさんの傷跡は……?」
風呂場で見えてしまった、上半身の至る所にあった、多くの傷。
「見苦しいものをお見せしてしまい、申し訳なかったです。あれらは全て、刀傷ですよ。生前にできてしまった傷が、再現されてしまっていますから。まぁ、つい最近できてしまった傷もあるのですが。」
そう言って、眉を下げて笑う彼が、嘘を述べているようには、やはり思えない。
「本当に、その……、あなたは、“天草四郎”、なの……?」
「……えぇ。およそ。」
「……。」
天草四郎。教科書に書いてあった知識と、その時の社会科の先生が教えてくれたことしか、私には知識が無い。確か、島原の乱で指導者のような立場にいたこと。何万人という人間を率いて島原の乱を行ったけれど、結局鎮圧されてしまい、天草四郎もその際に処刑されてしまったこと。あとは、確か、天草四郎は奇跡の子であり、たくさんの奇跡を起こしたとか何とか……。私がパッと思い出せる知識は、これぐらいのものだし、そもそもその知識だって間違っているかもしれない、ぐらいのレベルだ。
「ん? その傷は……?」
目の前の彼が、私の指先をじっと見ている。あぁ、これは昨日、雑炊を作っていた時にできた、浅い傷だ。痛くないと言えば嘘になるが、絆創膏をまいておけば数日で治る。
「あぁ、うん。昨日、料理した時にできて。慣れないことはするもんじゃないってコトかな。」
「よろしければ、絆創膏を取って、傷を見せていただけますか?」
「え? あぁ、うん……。」
こんな小さな傷を見せたところで、何にもならないとは思いつつ、彼がそう言うので、取り敢えず絆創膏を取る。
「もしよろしければ、この傷を、すぐに治して差し上げますよ? 私が今できる、せめてものお礼です。」
「は、はぁ……?」