愛の唄 【Fate/GrandOrder 天草四郎】
第3章 愛の唄 Ⅱ
「ん……?」
かすれた声と共に、彼は目をゆっくりと開けた。昨日は私も余裕が無かったけれど、ゆっくりと開かれた瞳は、蜂蜜色に透き通っていた。不覚にも、ドキリとしてしまった。
「あ、お湯とか、飲む……?」
そう言って、私は白湯の入ったマグカップを差し出す。彼は、ゆっくりと上半身を起こし、ぼんやりとした瞳で、私を見た。
「……いただきます。ありがとう、ございます……。」
そう言いながら、彼は両手で、私からマグカップを受け取った。一つ一つの所作が、丁寧な辺り、それなりに育ちの良い人物なのではないだろうか。彼は、ゆっくりとお湯を飲み下していく。こくり、こくり、と柔らかな音を立てて、マグカップの中身を空にした。
「ごちそうさま、でした……。」
それだけを言うと、彼は再びその体を寝具へと横たえた。
「あ、うん……。」
私は、それだけを言うと、マグカップを洗うために台所へ向かった。
結局、名前も聞けなかったなぁ……なんて思っても、仕方がない。けれど、昨日と比べれば随分と穏やかな顔で眠っている辺り、きっと回復はしてきているのだろう。熱も、随分と下がってきているようだし、早ければ明日にも会話ができるぐらいにはなるかもしれない。そうなれば、何か食べたりもできるようになるかもしれない。そう思って、少しの時間だけ、買い出しに出かけた。ついでに、コンビニへ寄って、男性用の下着を、2枚だけ購入しておいた。
夕方にも、彼を起こして、白湯だけは飲ませてあげた。マグカップを受け取った時に、彼は丁寧なお礼と共に、今度は白百合のように微笑んだ。あぁ、笑うとこんな顔をするのか。まるで、此方まで気恥ずかしくなるようなぐらいに、清らかな笑みだったのだ。しかし、彼は再び、すぐにそのまま深い眠りへと落ちていった。