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愛の唄 【Fate/GrandOrder 天草四郎】

第3章 愛の唄 Ⅱ



「放って、おけない、し……。」
 私の口からは、知らずそんな言葉が漏れていた。どこの誰かなんて全く知らないし、日本語を話せるけれど、肌の色も髪の色も日本人っぽくない、得体の知れない少年? 青年? とにかく、このままこの場所に放置しておくことだけは、できない。

「ちょっと、失礼するね。」

 傘をその場に放り投げて、彼の腕を拝借する。肩に担いで、何とか移動させようとする。相変わらず、彼の体は熱い。

「な、なに、を……?」
 彼は酷く驚いた様子だが、私の動きに抵抗する様子は無い。いや、もう抵抗できるだけの力も残っていないのかもしれない。
 雨が、強くなってきた。
「1分ぐらい、歩ける?」
「……。」
 彼からの返事は無かったけれど、私は黙って、自室へと彼を連れ帰った。



 彼には悪いけれど、玄関口で、使い古したタオルを使って彼の体を乱雑に拭く。見知らぬ他人にこんなことをするのは気が引けたけれど、あまりにも泥水と血で汚れていたのは、どうしようもなかった。
 ボロボロでその役目を果たさなくなっているブーツのような靴を脱がせて、備え付けの小さな風呂場へと、彼を無理矢理に押し込む。悪いとは思うけれど、恐らく怪我をしているのに不潔にしては、傷に障る可能性もある。取り敢えず、バスタオルと、手持ちの中では大きめなサイズの服を用意してから、私も服を着たまま風呂場へと入り込む。

「……ごめんね。許して。」

 私はひとこと、それだけを言うと、彼のボロ布のような服を、一気に剥ぎ取った。一応、剥ぎ取った衣服は、一旦ビニール製のゴミ袋へ入れておく。

「……っ……!?」

 上半身が露わになった彼は、傷だらけだった。それも、新しい傷だけじゃない。かなり以前に付いたと思われるような傷も、至る所に見られた。まるで、刃物で切り付けられた……というよりは、嬲られてメッタ刺しににでもされたのかと思われるような、全身傷だらけの状態だった。一体、目の前の彼が何者なのか、ものすごく気になるけれど、今はそこばかりを気にしてもいられない。狭い浴室の床に彼を座らせて、熱くないような温度のお湯を、シャワーでかけて、汚れを落としていく。傷に障ってはいけないので、シャンプーやボディーソープはやめておいた。お湯がかけられた箇所から、案外すんなりと汚れは落ちていった。彼の呼吸は、相変わらず荒い。

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