愛の唄 【Fate/GrandOrder 天草四郎】
第3章 愛の唄 Ⅱ
「死、死ぬ……とか……?」
自分で言った瞬間に、全身から血の気が引いていくのを感じた。それは、困る。自宅近くで変死体が発見されるとか、そんなの、後味が悪すぎる。私は、鞄から携帯端末を取り出して、それを握りしめながら、声がした方向へと足を進めることにした。
雨と傘で視界が悪い。足元も悪い。その中で、声の主を探す。やっぱり、空耳か何かだったのだろうか。ゴミ捨て場や、看板の裏も探すけれど、それらしい人影は見当たらない。諦めて、やはり自宅へ戻ろうとしたときだった。私が、建物と建物の隙間で、地面に倒れ伏している“彼”を見つけたのは。
「―――――ッ! 大丈夫、ですか!?」
私は、大慌てで“彼”に駆け寄り、しゃがみ込む。倒れているとはいえ、それなりにある身長、服の感じ、僅かに見える顔立ち。何となく、男性なのだということは、すぐに分かった。首の辺りに触れて、体をゆする。
「あ、熱……っ!?」
触れた彼の身体は、この寒さだというのに、信じられないぐらいに、熱かった。
「す、すぐに救急車をよびますから、しっかりしてください!」
そう言って、携帯端末の通話機能を起動する。その瞬間、私の手は、“彼”の手によって制止されてしまった。彼は両腕だけで自身の状態を支え、片手を伸ばしてきたのだった。彼は一瞬だけ、酷く驚いたように目を丸くしたけれど、それはすぐに苦悶の表情へと変わった。
「……、その必要は、……ぁ、りません……。もう、っく、……少しで、おさま、り、……はぁ……、ます、か、ら……。……っは、ぁ……、はぁ……。」
苦しそうに紡ぎ出された声は、落ち着いた、若い男性のそれだった。言葉を紡ぎながらも、自らの体重を支えていた両腕はガクガクと震え、やがて再び、その顔を地面へと落とした。
「で、でも、このままだと……!」
衰弱死しかねないのではないか。
「病院へ、っは、……行っても、……治りません、……から……。どうか、……放っておいて、はぁ……っく、くだ、さ……ぃ……。」
途切れ途切れに、彼は言葉を紡ぎ出した。何を言っているのか。この高熱で、病院へ行かない? 行っても治らない? それって、どちらにせよ、ものすごくまずい状況ではないのだろうか? でも、目の前にいる彼が、嘘をついているようにも見えない。