愛の唄 【Fate/GrandOrder 天草四郎】
第2章 愛の唄 Ⅰ
天草は、勝負に出る。いや、もう出ざるを得ない。窮鼠猫を噛む。それほどまでに、彼は追い詰められている。
「キャスター、覚悟……! 神明裁決――――――!」
ルーラーの特権として与えられたスキル。それを利用し、天草はサーヴァントを拘束せんとする。
「ふっ、焼きが回ったか?」
当然、天草のスキルに対して無策なダ・ヴィンチではない。拘束対策は、万全だ。手製の礼装で、数発は余裕で防ぎきるだけの備えがある。
「いえ? 誰が貴方を狙いますか。」
天草が狙ったのは、ダメージを負い、残り1騎となりながらも最後までマスターを守護し続ける、巌窟王だった。
「ぁ……! な、に……!?」
巌窟王は完全に動きを封じられ、倒れ伏した。巌窟王は、地面に伏しながらも顔だけを上げて天草を睨み付けるも、手遅れである。今まで巌窟王が押しとどめていたシャドウサーヴァントは、これ好機とばかりに、マスターである少女を狙う。
「―――――チッ!!!」
ダ・ヴィンチは、一瞬でその状況を把握し、マスターへと駆ける。マスターへ近寄る敵を、全力で退けるしか、ない。
その隙に、天草は聖杯へとその両腕を伸ばす。天草の口元は、自然に笑みを浮かべていた。
―――――――まずは、受肉だ。
いくらサーヴァントとして強靭な肉体を保有していようと、受肉していなければ、“世界”の中で安定して存在することはできない。
「―――――――ッ、ああ、あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
聖杯が、天草を浸食する。当然だ。触れた両腕から、汚染された魔力が流れ込むのだから。彼の両腕は、千切れんばかりの痛みに苛まれている。そしてそれは、全身へと伝う。
「―――――っふ、あ、ははははははははは!!」
しかし、天草にとっては、この痛みこそ随喜だ。これで、己の願いは叶えられる―――――そう思えば、この程度の痛みは、快感をもたらすモノでしかない。
「天草……、四郎……。シロウ―――――!!!!」
マスターであった少女の、悲鳴のような声がする。
天草は、少女の声に応えることなどない。しかし、天草はその声に振り返り、少女に向かって恍惚とした瞳を向ける。しかし、その瞳はすぐさま、驚きの色に染まった。