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愛の唄 【Fate/GrandOrder 天草四郎】

第8章 愛の唄 Ⅶ


***

 私が目を覚ますと、天草はいなかった。端末を使って、時間を確認する。そこでやっと、朝が来たということを知る。……あぁ、昨日の事は全て夢だった……訳は無い!
 私が体を起こして周囲を確認すると、そこは分教会にある天草の私室だった。周囲に、物という物なんて、ほとんど無かった。

 辺りはまだ暗かったが、急いで天草を探す。家の中を探し回っても、どこにもいない。でも、まだ敷地内にいるかもしれない。ここにいないということは……!

――――――いた。
 天草は、礼拝堂にいた。
 仄暗い中、天草は十字架に向かって祈っていた。神聖な光景だった。神父服姿で祈りを捧げる天草の横には、スーツケースと鞄が、それぞれ1つずつ。まさに、出発しようとしているところだった。

「……起きてしまいましたか。」
 天草は、こちらへ振り返ることなく、そう言った。


「……うん。……もう、行くの?」
「はい。」
 私に背を向けたまま、天草は答えた。


「あと10分もしないうちに、タクシーがここへ迎えに来ます。2台呼んでいますから、そのうち1台で、貴女もここを出ると良い。運賃は私が払いますので、その辺りはご心配なく。」
「……。あり、がとう。」

「さて、これで本当にお別れですね。私は、この3年間を、貴女と過ごせたこと、……、楽しかった。あの雨の日に助けられたのが、貴女というひとだったこと、本当に、奇跡でした。」
 天草は、背を向けたまま、言葉を紡ぐ。その背中には、朝日が降り注いでいて、天草の姿をより神々しく煌めかせていた。
「心から、感謝します。」

「願い事……。」
 そう、願い事。天草が私に、ひとつだけ叶えてくれると約束した、あの言葉。
「はい。それで、何か思いつきましたか?」

「……うん。決めた。だから、きいて。叶えて。」
「では、お聴きしましょう。」
 天草は、此方を向かない。淡々と、私の言葉に応じるだけ。けれど、私はそんなことを気にも留めず、礼拝堂の空気を肺いっぱいに吸い込む。そして、精一杯の勇気を振り絞って、声にする。








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