愛の唄 【Fate/GrandOrder 天草四郎】
第8章 愛の唄 Ⅶ
「……どうしましたか?」
優しげな、天草の声。その声は、直接私の脳に染み入るように。
「……ぇ?」
体が離される。それだけで、私の胸からは寂しさが込み上げてくる。
「……泣いているのですか?」
言われて、自分の目元へと手をやる。明らかに濡れている。私は、泣いていたらしい。
「……、ううん。何でもない。何でもないから。」
「……。そうですか。」
「ごめん。俺はもう、捨てたんだ。……個人に対する憎しみも恨みも、全部捨てたんだ……! だから、俺は誰かに愛情なんてモノを示されても、俺は……! もう、俺は……!」
天草は、絞り出すように、声を押し殺しながら叫んだ。多分、涙を流してはいない。でもきっと、天草は泣いていた。
しばらく経った後、私を再び抱き寄せた。その温度が懐かしくて、切なくて、胸がきゅうんとなった。
「……ひとつだけ。」
「ぇ?」
沈黙の後、天草は突然口を開いた。
「一つだけ、私は貴女の願いを叶えます。」
「……願い?」
天草の腕の中、私は天草の言葉を反芻する。
「無論、何でもという訳にはいきませんが。でも、俺に叶えられることなら努力する。……どうでしょう?」
「……どうしたの、突然……? ……っ?」
腕の力が強まった。
「……いえ。秘密です。で? どうします?」
穏やかな、天草の声。
「……うん。ありがとう。じゃあ、何をお願いするか、考えておくね。」
「別に、金銀財宝でも疑似的な不老不死でも、それなりに叶えられますよ?」
何だか、わりととんでもない内容のことを耳にした気がするけれど、失恋したばかりの私に、そんなものは不必要に思えて。