愛の唄 【Fate/GrandOrder 天草四郎】
第8章 愛の唄 Ⅶ
私の考えは、甘いのかもしれない。今だって、私は彼の記憶を、傍観者のように“見た”だけだ。実際に殺されていった3万7千人もの人々の気持ちなんて、分からない。もしも私が、あの戦いで首を刎ねられた人間であれば、何を思っただろう。敵を憎しんだだろうか? 同じように、敵全ての首を刎ねなければ気が済まないと思っただろうか? それとも、一揆の指導者であった天草四郎に、その犠牲に見合うだけの何かを要求しただろうか? 分からない。私には分からない。それに、私の人生で、愛する人が殺されるだとか、大きな争いの中で命のやり取りをしただとか、そんな場面は無かった。だから、そんな私は、天草四郎のような人間に、何を言う資格も無いのだろう。きっと、私の言葉は薄っぺらいもので、何の中身も伴わなくて。よくよく考えれば、私は随分と尊大だ。自分はどれほどのことだってしていないのに、天草に対して「休んでいい」などと、今思っただけでも、それは思い上がりの一種ではないだろうか。私は、狡い人間かもしれない。
それでも、私はその狡さを飲み干せるぐらいには、天草四郎を好いてしまっている。天草は、きっと個人を好きにならない。個人に対して心を砕いたり、執着したりすることなんて、きっと無いのだと思う。
―――――知っている。
この恋は届かない。
―――――それでも、それでも、構わない。
今、この瞬間、天草四郎の心臓が動いていて、温かな腕があって。
それだけで、いい。
―――――――いいんだ。
――――――あぁ、でも。
――――――神様、叶うのならば……、