愛の唄 【Fate/GrandOrder 天草四郎】
第8章 愛の唄 Ⅶ
“あの少女”と瓜二つの、恐らくは並行世界における、限りなく同一の存在。やはり、それがこの女性の正体なのだろうと、天草は改めて結論付ける。“あの少女”と比較すると、少々年齢が上だが、間違いない。同じ魂の色、澄んだ声。
『明日の朝まででいい。貴女をこの両腕で抱きしめながら眠っても、いいですか?』
天草は、何故自分があんなことを口走ってしまったのかと考える。それは、裏切った“元マスター”への義理がある為か。或いは、自らへの好意を口にしたにもかかわらず応えられないが故の、せめてもの代償か。恐らくその辺りだろうと、天草はひとり納得する。
彼の右腕は邪を喰らい、彼の左腕は天を繋ぐ。
(――――――この両腕の使用用途としては、不適切だな。)
天草は暗闇の中、ひとり自嘲気味に顔を歪めた。
――――――そう。天草の両腕は、個人を掬うものではなく、人類すべてを救うもの。英霊となった天草四郎は、そのように自分を定めたのだから。
(……あぁ、でも。)
腕の中に確かにある体温が、ひどく心地良い。
(これは、……うん。まぁ、今晩ぐらいは、許してもらいたいものだ、な……。)
天草は誰にも知られぬよう、小さく息を吐いた。