愛の唄 【Fate/GrandOrder 天草四郎】
第8章 愛の唄 Ⅶ
或いは、贖罪のつもりなのだろうか。
いや、しかし天草は、後悔などしていなかったし、今もしていない。
天草は、彼を信じると言って、何度でも止めると言った“あの少女”を裏切った。天草は、少女が己のマスターでいる限り、自らの夢を封じると言った、あの言葉さえも反故にした。ただひとつ、己の願いの為に。
どうしたって咎められるべき行為だ。
結果として、叛逆は失敗に終わり、あの聖杯を手中に収めることは叶わなかった。もう少しというところで、結局“あのマスター”に止められたのだ。彼女は、何度でも天草を止めると言葉にした通りの行動を成し遂げた。
(なんでまた、こんな……。)
天草は、自らの両腕に収まっている体温を感じながら、考える。
何故、この人間はこれほどまでに自分へ寄って来るのか。天草の心へ踏み込んで来ようとするのか。以前の主人を裏切って、この世界へと飛ばされてきたことは既に伝えた。己の夢についても、伝えた。それにもかかわらず、まだ天草へと踏み込もうとする彼女。そんな彼女は、己の悲願にとって邪魔な存在であり、煩わしくも思う。それでも、この関係を断ち切ることは、何となく躊躇われた。理由を考えてみても、答えが出ない。
自分から仮契約を持ちかけたのは、一体何の気まぐれだったのか。それすらも、説明がつかないことだった。
『四郎、開けて。私、四郎のこと、もっと知りたい。お願いだから、ちょっとだけ、四郎の中に、入りたい。私は、四郎のことが―――――……』
『私は、四郎のことが、好き。』
『え? う~ん……、なんで、だろうね? 理由なんてもう、私にも分からない。気が付けばもう、気になって仕方なかった、っていうか……。私にも、ちゃんとした理由なんて、全然分からない。でも、考え方が違ったって、目の前の人間が素敵だったら、好きになるし……。』