愛の唄 【Fate/GrandOrder 天草四郎】
第7章 愛の唄 Ⅵ
「酷いものでしょう? 何だかんだと理屈を並べていますが、私も多くの人をこの手で殺してきた。生前も。死してからも。」
彼は自嘲気味に、そう口にした。
……今ならば、分かる。彼は、本当に、優しいのだ。誰も傷ついてほしくないし、誰のことだって慈しみたいのだ。でも、人間が、人間こそが、彼を幾度となく裏切り続けた。
「もう、俺は止まれない。止まってなるものか。例えこの魂が朽ち果てようとも。」
そう。きっと、彼が止まるということは、今まで彼が払ってきた犠牲も全て、無駄にするということだ。彼を信じて付いていった、彼が背負った3万7千もの命を、全て。その重みで、天草は潰れかけている。いや、もう既に幾らかは潰れてしまっているのかもしれない。しかし、そんなのは天草自身が許さない。
きっと、彼の心には、もう何も、誰も、入り込む余地など無いのだろう。或いは、彼自身の気持ちさえ、もう彼の心には入り込む隙も無いのかもしれない。あぁ、でも。
私は、天草へと抱き付いた。それはもはや、しがみつくように。背中に回す腕に、力を籠める。
「……!」
天草は何も言わないが、多分驚いている。
私だって、何も言わない。というか、何を言えばいいかも、分からなかった。ただ、こうしたいと、思ったのだ。
―――――ただ、この目の前にいる存在を、愛おしいと思ったのだ。
でも、私の平凡な人生を何度見返してみたって、あんなにも波乱万丈だった天草四郎に言えそうな言葉なんて、何も見当たらない。だから、せめて私はこの腕に力を籠める。
「――――――っ、ぅうう……。」
私が泣いてどうするんだ。天草四郎の人生の内のほんの少しを、ただ傍観しただけの私が泣くなんて、おかしい。
「……っ、ごめん、なさい……!」
「いえ。……ありがとうございます、マスター。」
天草はしばらくのアイア、ゆっくりと私の背中を撫でてくれた。その手が、最高に心地良いだなんて、この時間が永遠に続いてほしいだなんて、私は……。