第9章 I can smell.
(不思議な匂いだったなぁ…)
(でもあの感じ、好きかも。また嗅がせてもらおっと)
そんなことを考えながら歩いていれば、向かいから来た人物には気付かないナナバ。
「随分とご機嫌だな」
「兵長、お疲れ様です。…ええ、ちょっといいことがありまして」
「そうか…。エルヴィンはいたか」
「はい、いらっしゃいました」
コンコン
(一体何だったんだ…)
コンコン
(甘い…、カリンもそうだが、ナナバは明らかに違う…)
コンコン
(まさか、あれが…)
……ガチャ
「チッ…」
「おい、居るなら返事くらいしたらどうだ」
「あ、あぁ、リヴァイか。すまない、少々考え事を……」
そう言って顔を向けたエルヴィンだが、その頬にはほんのりと朱が差している。
「…何だ、気色悪ぃ……」
「…?」
「まぁ、いい…」
「追加だ。貰っていくぞ」
入ってそうそう目的の紅茶缶を手にしたリヴァイは、すかさず踵を返す。
「待ってくれ」
「……」
「すまないが、一つ頼まれてくれないか」
「…聞くだけ聞いてやる」
「私の匂いを、嗅いでみてくれないか?」
「…あ"ぁ"?」
(揃いも揃って……)
眉間の皺に、ため息一つ。
「いいだろう……。おい、屈め」
「すまないな」
強張った表情は霧散し、どこかほっとしたような、何かを期待するような、そんな笑みを浮かべてエルヴィンは膝をつく。
「ついでだ、目を閉じろ」
「…?これでいいか?」
近付く影。
バチンッ!!!
「!?」
「はっ、馬鹿が。素直にするか」
それだけ言うと、リヴァイは今度こそ部屋を後にする。
静寂の中残されたのは……
頬だけでなく、額まで赤くしたエルヴィン、只一人であった。