第9章 I can smell.
「ねぇねぇ、ミケ。エルヴィンや私じゃダメなのかい?」
ハンジの問いかけに、ミケはゆるゆると首を振って答える。
エルヴィンは頼めば確かめてくれるだろう。
だが、しかし…
「噂を気にしているんだろう?なにしろ、私とミケは"デキている"らしいからね」
「言うな……」
ミケは深くため息を吐く。
そう、兵団内で実しやかに流れている噂―エルヴィン団長とミケ分隊長は特別な関係である―が頭をよぎり、その対象からははずれていたのだ。
「まぁ、無理もないだろう。あれだけ熱心に尻を揉まれては、な」
「忘れろ……」
エルヴィンとは公私共に付き合いが長い。また兵団内No2というその実力と相まって、ミケは彼の右腕と称されている。
それ自体は光栄であり否定するつもりもない…が、穿った見方をする一部の人間からの噂が、尾ひれをつけて泳ぎだしていたのだ。
なおかつ、先日の"尻揉み事件"がさらに煽っている。
暫くはこの噂で持ちきりだろう。
そんな事より、他にもっと建設的な話題は無いのか…と、改めて思い出したミケは盛大に顔を顰めた。
「随分と嫌われてしまったな」
「冗談にしては笑えん」
「うーん、だったら私が確かめるよ!」
「なんとなく嫌だ」
「即答!?何それーーー!!!ひっどいな~~~」
などと言いつつも、楽しそうに『確かめてみてよ!』とモブリットに無茶振りするハンジ。
相変わらず、真面目で忠実な副官を無意識に振り回すのが好きらしい。
「くだらねぇ…。いい加減終わりにするぞ」
匂いだろうが何だろうが、好きにすればいい。
既に一杯目は飲み干した。一刻も早く次の茶葉を試したい。
そう思ったリヴァイは強引に幕を引く。
「待て、まだ匂いを」
「黙れ」