第9章 I can smell.
「リヴァイ」
彼の名を呼び、そのままの形で動きを止める唇。
そしてゆっくりと閉じては、無表情のまま逡巡する。
「何だ」
そんなミケを、お馴染みとなっている眉間の皺を寄せつつ凝視するリヴァイ。
もしかしたら、何かを察していたのかもしれない。
「…俺の匂いを、嗅いでみてくれないか」
「あ"?」
和やかなお茶会を中断するには、余りにも十分すぎる一言。
あっという間に眉間の皺を増やしたリヴァイは、チッとお馴染みの舌打ちで答える。
「おぉ、近年稀に見る皺の数だ。モブリット!スケッチしろ!」
「ちょ、失礼ですよ!第一スケッチの道具はありません!というか、スケッチして何に使う気ですか…」
「よく見ると、額に青筋まで浮いているな」
そして、それぞれ好き勝手に楽しむ、もとい状況を把握しようとする三人。
じっと見つめあうリヴァイからは、望んだ反応が返ってこないだろうことに、ミケはどうしたものかと再度思考を巡らす。
一度目を閉じ、考えが纏まったのかゆっくりと瞼をあげ、そのまま、今度はリヴァイの隣で一人分間を空けて立つ彼へと視線を流した。
「……モブリットでも構わん」
「えぇ!?え、あ、いや、お、俺?あ、いやわた、私ですか???」
突然何を言い出すのかと思えば、今はその矛先が自分に向いている。
ミケに見つめられ、またモブリットも驚きから目をそらすことが出来ず『あぁ、無口な人だけど…優しげな目元だな…。目は口ほどに、とはこの事かな?』などと、漠然と考えていた。
無言で見つめ合う二人。
「おーい、モブリット~?」
「はっ!!!」
直属の上司の呼びかけに、非現実から戻ってきた真面目な副官。
普段迷惑をかけられっぱなしだが、この時ばかりは心底感謝した。
「あ、あの!ミケ分隊長は一体何がどうして……」
「いえ、その、とても素晴らしいです!」
「あぁ、ありがとう…?」
…一体、何が素晴らしいのか?
言った本人も聞いている周りも分からない。