第9章 I can smell.
くん、くん…
「……ん」
そんな二人のやり取り等知る由もなく、満足したのか、カリンがゆっくりと瞼を上げた。
「終わった?…どう?」
ナナバの言葉に安堵するミケ。しかし、肩に添えた手も、背中に当たる柔らかなそれも、そのまま。
再び顔を真っ赤にしたミケは、まるで助けを求めるように眉を下げてナナバを見る。
が、彼女はどこ吹く風で受け流す。
「ナナバ…、貴女は何も匂わなかったのよね」
「うん、私はね」
くんくん
再度匂いを嗅ぎにいくカリン。
もうミケに許可を取ることはしない。余程没頭しているのだろう。
「やっぱり……」
「やっぱり?」
「………」
(何を言われるか、恐ろしいな…)
「……いい、匂い」
「いい…」
「匂い、か?」
やはり付き合いの長さが成せるものなのだろうか。ナナバとミケは、絶妙な間で単語を繋ぐ。
「はい。とても、いい匂いです」
「へぇ」
ナナバは感嘆の溜息を漏らす。
(私にはさっぱりだったけど…、カリンには何か感じるところがあったんだね)
「カリン…、どんな匂いだ?」
「それは…」
ミケに問われ、彼女は三度鼻を寄せてはくんくんと可愛しく鳴らした。
「……ふふ」
ふと、恥ずかしそうに微笑む。
そして、静かにミケの背中から一歩後ろへ。
「ミケ分隊長の匂い、です」
「!!」
控えめな声でそう告げられたミケは、驚きで目を見開く。
逆に、カリンは目尻こそほんのりと染めているが、醸し出す空気には余裕が感じられた。
…普段とは、立場が逆転している二人。
(カリン、今日はどうしちゃったの…ほんと大胆!)
そして、何故か感動するナナバ。
(始めこそ恥ずかしそうだったのに、夢中になるとそうでもなくて)
(まぁ、周りが見えなくなる、と言った方がいいかな…)
(でも多少は変化が望めそう?うん、今回はこれで良しとしよう)
腕を組み、何かに納得したように『うんうん』と繰り返すナナバ。
「ナナバ…?」
そんな彼女を不思議そうに見るカリン。
「………」
そして、首筋をさすりながらまだまだ顔の赤みは引きそうにないミケ。
結論:要観察。でも、ミケとカリンはやっぱり相性いいと思う。うん。
Byナナバ