第9章 I can smell.
「……」
「カリン?」
ミケに呼ばれて一歩、その広い背中に近付く。
「本当にごめんなさい。私が言い出したことなんです」
「俺の匂い、か?」
「はい」
普段匂いを嗅がれる側のカリンは、ふと思った。
ミケはどんな匂いがするのだろう…、と。
勿論、彼程の嗅覚はないのだから、嗅いだところでわからないかもしれない。
しかし、いつも見上げる視界にあるその首筋に、興味が湧いた。
「ミケ分隊長…これからもいくらでも嗅いでいただいて構いませんので」
「!?」
「私も、嗅いでいいですか…?」
(お、大胆)
ナナバは驚きで目を丸くする。
(でも…言ったまんまの意味しかないだろうなぁ…)
そう思えば困ったように眉をよせて苦笑い。
「…カリン」
「だめですか?」
「いや、そうでは…」
「カリンいいって。ほら、こうやって」
ナナバはカリンの背後に立つと、彼女の両手に自身の手を重ねた。
「…カリンってば指綺麗だよね。柔らかいし」
「そんなことないわ。ナナバこそとても綺麗よ。長いし」
「………」
突如、ミケの背後で始まった女子トーク。
「髪も柔らかい。いいなぁ…女の子!って感じ」
「そう?でもナナバはかっこいい、って言ったら失礼かもしれないけど…、素敵よ」
カリンはうっとりとした声でナナバに向けて賛辞を贈る。
「カリンに言われると嬉しい、すごく」
ナナバもまた、素直に喜びの言葉を口にしてカリンを抱きしめる。
「………」
二人の熱のこもったやり取りは、既にミケを置いてけぼりにしていた。
「こうやって後ろからぎゅってすると、柔らかくて気持ちいいなぁ…」
「ナナバに抱きしめられてると、どきどきする…」
ミケの肩がぴくりと揺れた。
(それは、一体どういう意味でだ…)
「カリンって…全身柔らかいのかな?」
「ふふ。もしそうだったら痩せないとね」
「えぇ、いいってこのままで。全然太ってないよ?」
「でもナナバみたいにスレンダーだったらって…すごく憧れるわ」
「………」
(何なんだ、この会話は…)
「そういえば…カリン胸大きいよね」
「え…」
「おい、ナナバ」
流石に、これ以上は聞くに堪えない。