第5章 時間じゃないが、全員集合
「昼間は、すまなかった」
グラスの中、震えるように揺れる琥珀を見つめながらミケは小さく詫びる。
「いや、構わん」
「それより、カリンには確認したのか?」
「……なにもない、と」
「ふむ、まさにその通りだ」
そう言っては、エルヴィンは畳まれたマントにそっと手を乗せる。
「聞いているだろうが、猫を預けた時に一緒に渡したんだ。なにしろインクまみれだったからな…これで包んだというわけだ」
「それを今朝返しに来た。香りはカリンの手元にある間に移ったんだろう」
「それだけだ」
「そうか…」
早とちり、か。
しかしあの時、確かにカリンの匂いは変わった。
あれは何だというのか?
「まだ納得がいかないか?」
部屋の灯りは小さなランプ一つだけ。
「だが、私が話せるのはこれだけだ」
「ミケ」
呼ばれて顔をあげれば、ここに来てからずっと俯いていたことにミケはようやく気付く。
「彼女を信用していないのか?」
「そんなこと、あるわけないだろう…!」
「だったら…信じてやればいい」
「君が信じてやらないで、どうする?」
ランプの中、揺れる炎は頼りない。
だが、小さくも暖かな色は琥珀に彩りを添え、徐々に気持ちを落ち着かせていく。
ミケはグラスの中身を一気に煽る。
「行くぞ、猫」
んなぉ
ミケと"ミケ"を見送り、閉じられた扉に背を預ける。
エルヴィンもまたグラスの中身を一気に煽った。
(塩を送ったつもりだが、届いたか?)
(そうそう悲しい顔は、させられないからな)
(彼女には…笑顔が一番似合う)