第1章 猫と団長と伝言ゲーム
定位置、いつものように執務机につくと、エルヴィンは決裁書を引き出しから取り出す。
それを右手側に置いた時、いつの間にやら現れていた白猫が書類の上に乗ると、そのまま丸くなり目を閉じてしまった。
「そこで、眠るのか?」
もう夢の中だろうか、白猫からの反応は無い。
やれやれ…ならば届いた手紙に返事をしようと、置かれているペンに触れた、その瞬間。
「!!」
机に飛び乗った黒猫が、勢いよくペンを弾く。
ペンはエルヴィンの手に握られることなく、机の脇へと落ちていった。
「こら、いたずらが過ぎるぞ。まったく…」
落ちたペンを拾おうと立ち上がったエルヴィンの耳に、にゃぁにゃぁと呼ぶような鳴き声が聞こえた。
そちらへ顔を向けると、茶色の猫が本棚の一番下でしきりに何かを叩いている。
「これは…」
三分の一程のところに栞がはさまれたそれは、もうすっかり忘れていた読みかけの小説。
ぱらぱらと捲ると読み進めた部分の内容が思い出される。
「……読むか。せっかく教えてもらったしな」
ありがとう、と茶色の猫の頭を一撫ですると、猫、と呼びかけようとして気付く。
ここには三匹の猫。
猫とだけ呼んでは彼等も自分もややこしいだろう。
では良い呼び名を、今だけでも付けてみるのもいいかと思い特徴を探るべく観察する。
やはり一番は毛色だろうか。誰が見ても分かりやすい。