第1章 猫と団長と伝言ゲーム
「何所から来たのかな、君たち」
刺激しないよう優しく声を掛けると、揃って振り返る猫たち。
エルヴィンを一瞥するとまた扉に向かい姿勢を正す。
(まさか入りたいのか?…ふむ、休日に猫に囲まれるのも悪く無い、か)
「…さ、開けるぞ。危ないからどいていなさい」
ドアノブに手をかけ、足下に注意しつつゆっくりと押す。
拳一つ分だろうか、わずかに開けられた扉をすり抜けて黒猫が中へ。茶色の猫もそれに続く。
「こら…まだ入っていいとは言っていないぞ?」
そんな声は聞こえていないのか、二匹の猫は悠々と室内を歩いている。まるで勝手知ったる、といった雰囲気だ。
いたずらさえしなければ問題はないだろうと続いて入ろうとするが、ふと足元から視線を感じそちらへと顔を傾ける。そこにはエルヴィンを見上げる白猫の姿。
「君は、入らないのか?」
んな、と短く答える白猫。
よくよく見るとあるはずの尻尾は無い。いや、まるで団子のように尻に塊としてついている。
不思議な形の尻尾だな、としばし釘付けになるエルヴィン。
その間も微動だにせずエルヴィンを見上げる白猫。その様は何かの許可を求めているように見えた。
(もしや…)
「そうか、君はなかなかに律儀だな。遠慮せずに入りなさい」
んな、とまた短く返事をすると白猫はようやく室内へと入っていく。
そんな猫たちを追い、エルヴィンも団長室へと入るとそっと扉を閉めた。