第4章 空色カメラ
「…うん」
カリンが両手で広げて持つのは、緑色のマント。
見馴れたそれは、先日の三毛猫の際に思わぬ形で預かることとなったエルヴィンのものだ。
「全部落ちてる。よし、大丈夫」
受け取った時には見事にインク塗れだったそれも、丁寧に洗濯をしたおかげですっかりと綺麗になっている。
(…ここ、勝手にしてしまったけど、やっぱりまずかったかしら)
それは、洗濯途中に見付けた小さなほつれ。本当に小さなそれは、普段通りに使っていれば問題はないだろう。
そのまま…とも思ったが、気付いてしまえば見ぬふりなど無理な話。
「お返しする時に伝えれば、大丈夫よね?」
そう思えば、先ずは裁縫道具を片付け出す。
…気付けば繕い物も、中々上手くなった。
何しろ、洗濯然り、裁縫然り、ここでは自分の事は自分でしなければならないからだ。
勿論、得て不得手はあろう。
だが世間からの一般的な印象―例えば荒事が得意な集団といったような―以上に皆こういったことが出来る。
ある意味得したこと、になろうか。
「そういえば…」
(少し前に結婚して退団した人も、兵団に来てからお裁縫が上手くなったとか)
(繕いものをしてあげたのが縁だった、と聞いたけど)
裁縫箱の蓋を閉じつつ『もしかして、いつか私も…』と考えたところである人物の顔が思い浮かぶ。
瞬間、熱くなる両頬。
熱を散らす為にぺちぺちと叩けば、ごまかすように『もう遅いからまた明日ね』となぜかマントに話し掛けてしまう。
丁寧に畳んだそれを自分のシャツの隣に仕舞うと、ゆったりとしたパジャマに着替える。
いつもなら、なんとなく気分的にも眠る準備が整うのだが、今日はそうもいかないらしい。
灯りを消した部屋の中心に立てば、カーテン越しに薄明かりが感じ取れた。
今夜も晴れて、綺麗な星空が広がっているだろう。
カリンは『おやすみなさい』と誰にともなく挨拶をすると、まだ熱い頬を落ち着かせるように摩りながら、ゆっくりと瞼を閉じた。