第1章 猫と団長と伝言ゲーム
「失礼します。エルヴィン団長、お呼びでしょうか」
入室後、背筋を伸ばし敬礼するモブリットに向け軽く右手を上げると降ろし、楽にするよう伝える。
「急に呼び出してすまない、実はコレを預けたいと思ってな」
左腕で抱えていたハンジ、もとい茶色の猫の前足の下に両手を入れ、モブリットの胸元へと押し付ける。
「え…?あの、猫?ですか?」
「君の上司だ、しっかり監督を頼むよ」
猫を受け取りつつ、上司の監督とはこれ如何に。普通であれば逆ではないか…?と首を傾げるモブリット。
いや、そうではない。猫の監督を頼むとは一体…?
「あの、失礼ですが、団長の飼い猫では…」
「いや、初対面だ。たまたま今日一緒に過ごしていたのだが…如何せんお転婆でな。きっと君でないとどうにも出来ないだろう」
にゃー…
少々気まずそうにモブリットの腕の中で丸くなる茶色の猫。
大人しくしているところを見ると、どうやらこのまま預けても問題なさそうだ。
モブリットも大事そうに抱いている。
「ありがとう、もう下がっていい。あぁ、それから…見かけたらで構わない、ペトラにこちらへ来るよう伝えてくれ」
「承知しました。では、失礼します」
大人しく収まる茶色の猫を両腕に抱き、モブリットは団長室を後にした。