第1章 猫と団長と伝言ゲーム
ふぅ、と大きく一つ息を吐くと、エルヴィンは両手を見比べる。
離しても問題ないだろうと判断すると、そっと左手の力を抜いた。
開放されたリヴァイは軽く頭を振ると、エルヴィンの様子を伺いつつ先程いた窓辺へと向かう。
驚き固まっていたミケも、急いで机の下へと潜り込んだ。
「君は、離せないな」
右手で掴んでいたハンジを抱きなおすと、櫛を仕舞うついでに窓から外の様子を確認する。
「いないか…」
ここから見える範囲には誰もいないようだ。
エルヴィンはそのまま扉へ向うと顔だけを出し、今度は廊下の様子を確認する。
と、丁度団長室とは反対側の廊下の奥、よく知った人物の後ろ姿を見つける。
「カリン!」
「!」
突然呼ばれ、軽く肩をはねさせると声のした方へ振り向く。
そんな彼女にエルヴィンは軽く手招きをしてこちらへ来るよう促した。
「はい!ただ今!」
エルヴィンに呼ばれることはあれど、手招きなど初めてだった為びっくりしてつい使用人のような返事をしてしまう。
…驚いたのだろう。
敬礼も忘れ小走りで自分の元へきた彼女に、内心『可愛いな』と思いつつ用件を伝える。
「すまないが、モブリットに団長室まで来るよう伝えてくれないか?」
「畏まりました。…他に、何かございますか?」
カリンはちらと抱かれる猫に目をやり、また視線をエルヴィンへ戻し尋ねる。
「あぁ、大丈夫だ。ありがとう」
「では、すぐに。失礼します」
彼女は踵を返すと、急いで階段を降りて行った。
「さて…もうすぐ君は、ふさわしい場所に行けるぞ?」
そう言うとエルヴィンはそっと後ろ手で扉を閉め、ハンジの頭を優しく撫でたのだった。