第1章 猫と団長と伝言ゲーム
ミケは慌てながら、決裁書が入っていた所とは別の引き出しを引っ掻く。
何とか開けると中に入っていたものを銜え、エルヴィンの元へと駆け寄った。
ミケは銜えてきたそれを落とすと、蹲ったエルヴィンの膝を必死に叩いて知らせる。
床にはシンプルな櫛が一つ、置かれていた。
「……」
やっと正気を取り戻したエルヴィンはそっと頭頂部に触れると、ミケが銜えてきたそれで慎重に髪を梳かす。
そんな姿を見て安心したのか、ミケはほっと息を吐くように、にゃ、と鳴いた。
室内では今だ追いかけっこが続いている。
「いい加減にしないか」
先程までとは比べ物にならない程の低音で呟かれた言葉。
驚き止まる、ハンジとリヴァイ。
ミケも同様に驚き、エルヴィンの足元で彼を見上げたまま固まっている。
エルヴィンは広い歩幅でハンジとリヴァイに近づくとそっと屈み、無言でその襟首をむんずと掴む。
右手にハンジ、左手にリヴァイ。
こうして、追いかけっこは意外な形で幕を閉じたのだった。