【ハイキュー!!】happy ignorance R18
第5章 uncomfortable fact
まずは、ただひたすら居心地が悪かった。
和奏から顔が見えないのをいい事に、露骨にこちらを挑発してくる及川さんの表情には、ありありと余裕が浮かんでて、
僕はこの衝撃を悟られないようにするのが精一杯で…
いや、あの人の意地の悪い楽しそうな表情を考えると、きっとバレていたんだろう。
少し落ち着こうと目の前のコーヒーカップに手を伸ばすが、口に運ぶ前に話しかけられる。
「月島君と和奏はクラスも一緒なんだっけ?
今日は勉強会だって聞いてるよ。」
どうやら、こちらに余裕を与える気は一切ないらしい。
「えぇ。まぁ。」
コーヒーカップを宙に浮かせたまま短く答える。
「まぁ、和奏の勉強は中学の頃から俺が教えてるから、こんな勉強会なんてしなくても問題ないはずだけどね。」
そうでしょ、和奏?と、彼女の方を向く時だけ、やたらと甘い表情の及川さん。
「確かにいつも宿題とか助けて貰って徹には感謝してるけど…せっかく教えに来てくれた蛍君の前でそんな事言う必要無いのに。」
それに、蛍君は凄く頭がいいんだよ!とぷーっと頬を膨らます和奏を見ても、
可愛い表情だとか、褒められて嬉しいとか、
そんないつもなら条件反射で浮かぶような感想も浮かんで来ない。
今になって考えると、まだ及川さんからの先制攻撃に翻弄されたままの精神状態だったんだ。
「ごめんって。そんなに怒んないでよ、和奏。」
そこからは…全てがスローモーションだった気がする。
あの人は柔らかに微笑んだ後、和奏の頬にキスを落とした。
挑発的な視線は僕をジーッと注がれ、僕はこの場に場違だと、居てはいけないと雄弁に語っていた。
「仕方ないなぁ。徹にそうやって謝られるのに弱いんだよねぇ…。蛍君、徹がごめんね…。何か余計な事言うのが趣味みたいな所があって…気を悪くしないでくれたら嬉しいんだけど。」
人前で晒すべきでない行為を受け入れながらの和奏のこちらを気遣うような視線に、
急に時間が進んだ気がした。
ガシャン
手に持ってたコーヒーカップが足元で砕けて、まだ暖かいコーヒーが借りたスリッパと僕の足を濡らした。
「あっ、ごめん。あの…僕、今日は帰るから。」
慌てて飛び出した。和奏が後ろから何か言ってたけど、僕の耳には届かなかった。