【ハイキュー!!】happy ignorance R18
第5章 uncomfortable fact
「あの…蛍君、昨日の事なんだけど…」
翌日、朝練の前に僕の前に現れた和奏は、漫画なら背景にシュンって描いてあるのが見えるようだった。
僕の庇護欲を心地よく掻き立てる態度に、一晩掛けて鎮めた心が再びザワザワと波打つのを感じる。
クラスが一緒で、部活が一緒。
今までなら文句のつけようのない環境だったけど…
1日でこうも心境が変わるなんて、流石に想像つかないでしょ。
こんなの…避けたくても避けれない。
一晩悩んでも、あの状況は僕の中で今も未消化なまま。
でも、本当は理解したくないだけで、客観的に見れば明白。
あの2人は付き合ってる。
僕はそれを知らずに勝手に舞い上がって…思い知らされたって…ただそれだけ。
世に溢れるただの失恋。
でも、今も抱えてる和奏への気持ちを、客観的に処理する方法なんて、僕は知らない。。。
失恋で自分のペース乱すとか…本当勘弁して欲しい。
自分らしく無さすぎて、寒い。
「あぁ、うん。突然帰ってごめんね。しかもコーヒーカップも割っちゃったのに、片付けもせずに。」
忘れ物だと和奏が差し出した筆箱を鞄に仕舞う。
「ううん。それは全然大丈夫。でも…突然だったから、びっくりしちゃって。あの…私、何か気に触るような事しちゃったの…かな?」
少し潤んだ上目遣いで、こちらを見上げるその仕草…。
彼氏が居るって分かってても勘違いしそうになる。
本当にやめて欲しい。
「いや、ちょっと体調が良くなかっただけだから。突然驚かせてごめん。」
「そっか。てっきり私、何かしちゃったかと思った…。あっ、それで、体調はもう大丈夫なの?」
「うん。一晩休んだからね。だからもう気にしないで。」
「蛍君が元気になったなら良かった!徹は何か急用でも出来たんじゃない?なんて言ってたけど、全然当てにならないね。」
不意に話題に出る及川さんの名前に、不覚にも動きが止まってしまう。
「蛍君?」
急に黙り込む僕を和奏が不思議そうに覗き込む。
「…そろそろ、練習始まる時間だよ。清水さん準備始めてるけど、行かないの?」
「あっ、本当だ!行ってくるね。朝練頑張ろうね!」
手を振りながら走り去る和奏に、何の反応も返せずに背中を見送った。
それから和奏を可能な限り避けるのは、僕の中では極めて自然な事だった。