第9章 荒野を歩け[帝統]
それから数日。
帝統はつむぎを避けていた。
避ける、というか会いに行かなければ会わないし。
だって、ちょっと、怖いし。
帝統はパチ屋の出入口付近で少しセンチメンタルになった。立ち止まったせいでパチ屋の騒音が漏れっぱなしになって、通行人は嫌な顔をする。うるせぇこっちは大変なんだ。
有栖川帝統、20歳。
もう限界だった。
寂しがりやの有栖川帝統はもうつむぎに会いたくて仕方なかった。でも、会うのが怖い。
まんま恋する純真男子のジレンマだ。
帝統はポケットから十円玉を取り出した。
もう限界な有栖川帝統は、これを飛ばして表が裏か運命を賭ける事にしたのだ。
表が出れば会いに行く。
裏が出れば会わない。
親指に力を込めて十円玉を飛ばすと、曇り空に思いっきり飛んでいった。
キャッチした十円玉を覗く瞬間、帝統はざわざわした。ギャンブラー特有のあれだ。
結果は、裏。
有栖川帝統は、アイツと会わない。
「……」
帝統の眉間には考えるより先にシワがよった。
悔しいとか、表の方が良かったとか、そんな感情は考えないようにする。それがギャンブラーだ。
帝統はフードを深く被り、その場を離れた。
雨の中に深く深く潜るように周りの音をシャットアウトすると、雨の匂いが肺に充満していく。少しずつ寒くなってきて、帝統は上着をぎゅっと握って気を紛らわせた。
チラりと見たショーウィンドウの向こうでは、マネキンたちがあんなポーズやこんなポーズ。煌びやかでカッコイイ服を着てカッコつけていた。
帝統はふっと、つむぎになにかしてやった事ってあったか?なんてつむぎには怒られそうなことを思った。
しかし実際そうだ。
してやったことといえばつむぎの好きな作家に会わせてやったことくらい。
『言っときますけど、つむぎさんが嫌がる事をしてしまえば速攻失恋ですよ。』
『あ、それでしたらもう失恋してますわねおほほほ。』
昨日の友人の言葉がぐるぐる回る。
失恋、失恋、失恋
「バカヤロー。」
なんとなく、罵倒がこぼれた。誰にも向けてない。強いて言うならマネキンに。八つ当たりだ。オシャレしやがってこんにゃろう。
そんな時急に、雨が、止んだ。
「なにしてんの?」
知ってる声が降ってきた。