第9章 荒野を歩け[帝統]
「深夜になんなんですか。」
嘘つきの友人宅は扉を200回くらい叩いたら開いた。
友人は平静を装っていたが、滲み出る不機嫌さが半端なかった。深夜に来たからか、はたまた締め切り間際なのかは知らない。帝統も今それどころでは無いのだ。ゾーンから抜け出せないのだ。
「助けてくれ!おかしいんだ!あ、アレがナニして!!つむぎに!」
「うわ、最低。犯罪者ですね。警察行きましょう。」
「違う!!」
いつもより煽りが雑な気がするのも多分、機嫌が悪いからだろう。2割くらいは帝統の言葉足らずのせいかもしれない。いや3割くらい。
「おかしいんだよ!助けてくれ!」
「変な人が急に深夜に現れて、扉を200回叩かれた挙句玄関先で大声で叫ばれている小生の方を助けて欲しいですけどね。」
え、小生ブチおこじゃん。
一瞬正気に戻った帝統はヒエっと背筋を凍らせた。でもこっちも負けてないんだ、と気合いを入れ直す。
「頼む、ヤバいんだよ。なんか、マジやばい。」
「ヤバいのは分かります。」
「聞いてくれ!頼む、まじヤバい。ほんとにヤバい。」
「思ってたより相当ヤバいですね。」
ヤバい、って言葉だけで会話したが、なんとなくヤバさは伝わったのだろう。嘘つきの友人は憐れな帝統をしぶしぶ家に入れた。
ことのあらまし、産まれた性欲のこと、その矢印が友人に向かっていたことへのヤバさをしどろもどろで伝えると、嘘つきの友人は呆れた顔をした。
「地獄絵図ですね。」
「地獄!!やっぱりか!」
嘘つきの友人が適当に言った言葉に帝統は納得した。
胸が焼けるように熱く苦しいのは、地獄だからだ。
「いや、アホですか。アホですね。」
「はぁ!?」
史上最速の自問自答をした友人は続ける。こんなアホに好かれてしまったあの子を憐れみながら。
「あなた、自分の恋心に気づいてなかったんですか。」
「こ、い、?」
「本当アホですね。帝統はつむぎさんのことが好きなんでしょう。」
「は、俺が、あ、あいつ、を」
帝統はみるみる顔を真っ赤にして、口をパクパクさせて、そして、
「んな、わけ、ねぇぇえーー!!!」
叫んだ。