第9章 荒野を歩け[帝統]
全財産(+自分の服)をスってしまうほど、他人の名前でサラ金に金を借りるほど常識なしの帝統だったが、自分のアレがソレ状態のまま、仮にも女性である友人の家に泊まるのはヤバいとは認識していた。
「頼む、頼むから降りろ。」
「んー、なんでこーいうかみがたなの?」
「降りろ!!」
酔っ払いはまだウザ絡みをしてくるし、アレを沈めないといけなくて訳わかんないしで、帝統はもう限界だった。いろいろ無理。
必死になって酔っ払いをひっぺ剥がすと、酔っ払いはむぅっと不機嫌を表情に出した。
帝統は今そういうゾーン、つむぎが何しても胸がギュンとしちゃうゾーンに入ってしまってるからもう大変だ。
あー怒ってるくらいにしか思ってなかったその表情にも、今の帝統はめちゃくちゃギュンギュンしている。
そのせいで、焦る、焦る。
「寂しがりやさんって、ゆったのに。」
「そーかよ!」
「だいす変だ。」
「はやく帰れ!」
酔っ払いの腕をつかみ、早足で家に向かった。
向かったのはもちろんつむぎの家。
帝統の頭はヤバいとか、苦しいとか、おかしいとかで溢れかえって、1周まわってもう何も無い。あ、腕触ってるうぉっていうのある。もう最高に頭悪い脳内だ。
つむぎの部屋の前に着いた時にはもう帝統はくたくたでヘロヘロで、限界だった。もうマジ無理。
「もう、だめだ。俺は、帰るから。」
「どこに?」
「どこでもいーだろ!」
「やっぱおかしいぞ。」
帝統は酔っ払いにすら訝しげな目をされた。ゾーンに入っててもそれは普通にムカつく。おい誰のせいだと思ってんだ。
でも、逃げるなら今だと思った。
つむぎが鍵を開けるのを確認したと同時に、帝統は逃げた。走って逃げた。それを見たつむぎが小さく首を傾げていたのを、帝統は知らない。
走って逃げながら、帝統は助けを求めた。
未知な事が、未知な感情が産まれたことを、どうすればいいのか。別に性欲が未知という訳では無いけれどその矢印が大切な友人に向いてしまっているという未知の状況。
「どういうことだよぉおお」
深夜のシブヤを走りながら、気づけばそんな声が漏れていた。
向かうのは嘘つきの文豪のもと。
なんでもいい、誰でもいいからゾーンから抜け出す術を教えて欲しかった。
あと、アレがナニ状態を何とかしたかった。