第8章 板の上の魔物[簓]
ささらくんは、白膠木簓として人を笑わす為に、色んなところでたくさん頑張ってた。
友達のささらくんと芸人の白膠木簓は同じ人なんだって、初めて知ったような、変な気分だった。
私は自分の心を探り探り伝えたけど、もしかしたらもっといい言葉があったかもしれないし、もっと上手に伝えられたかもしれない。なんて思ったけどこれが私で、これ以上にも以下にもなれない。
「ありがとうなぁいろいろ。みかんゼリー美味いしなぁ。」
「うん。」
“白膠木簓”も、人間なんだなぁなんて思った。
“白膠木簓”も風邪ひくし、みかんゼリーが好きやし、泣いたりするんやなって。
まぁ、当たり前のことなんやけど。
「じゃあ、ちゃんと寝て。」
「うん、ありがとうおかん」
「だからおかんちゃうわ。」
簓くんは緩い顔で笑っていた。
簓くんの笑顔、やっぱり素敵だなぁって思った。
「じゃあ、帰るわ。」
「えぇーもう夜やん、暗いやん。帰るなら送る!」
「病人が何を言ってるの」
「えー!元気すぎてほら布団がふっとんだぁ!」
「…。」
「……。」
「……。」
「…布団がっ」
「聞こえてます。残念でしたぁ。」
寒すぎて一瞬凍った。
でもまぁ、オヤジギャグ言うのが簓くんみたいなとこあるから、そこも含めて大好きな友人なのだけれど。
「あんな、つむぎ、」
「んー?」
「……嬉しかった。」
「なにが?」
「いやぁ、うーん……へへ、おれ、おもろいんやなぁ…。」
「うん。」
簓くんはそう言うと、彼の大きい手を伸ばして私の指を一瞬きゅっと握って、ありがとう、って言った。
ちょっとドキドキした。
これが推すという感情か。
「……ファンサ。」
「ははっ、簓さんの特大ファンサやで。」
簓くんはまたからから笑ってた。
お笑い芸人を笑わせたって、少しドヤ顔になった。
簓くんに手を振って部屋を出た。
買ってきたご飯もまだあるし、きっと明日には治ってるはず。
心配だったけど泊まるなどといったことは出来ない。簓くんがフライデーされたらひとたまりもない。今すっぴんだし。
家に帰って布団に潜り、その中で一日の出来事を反芻した。
簓くんのプロとしての道は、孤独なものなのだろう。これまでも、そしてこれからも。
私には、何が出来るんだろう。
考えて考えて、ぎゅっと目を瞑った。
布団の中、気がついたらちょっと泣いてた。