第7章 暁の蛇[善逸]
用意した布団に入ると、善逸さんはすぐに眠ってしまった。きっと、疲れていたんだろう。
私は自室に戻って自身の布団を敷き、布団に入った。
同じ屋根の下に、想い人が居るとなると落ち着かなくて、私は布団の中でひと暴れした。
明日、私は善逸さんを送る。
彼は朝方出ていくと言っていたから、それまでに朝御飯を作って用意して、彼が家を出ていくところを見届けなければいけない。
そうだ、朝御飯はどうしようか。
鮭を焼こう。それから漬物を出て、今日の味噌汁の残りも。ご飯も炊かなきゃだ。
それが私の、“藤の家紋の家”のお仕事だから。
私は、仕事の中でこの朝が1番嫌いだ。
朝御飯は好きだし、作るのも好きだけれど、私が1番嫌いなのは、見送ることだ。
見送ることが1番嫌いな仕事だということは、両親にも言っていない。
いつも不安な気持ちや悔しい気持ちでいっぱいになってしまうのに、送るのは笑顔でなければいけないと思うから、つらくて。
布団の中でふうと息をついてまた考える。私があのお話の娘さんだったらと。
きっと、蛇には成れない。ただ人のまま、想いを押し殺して生きていく。想いを伝えたいという気持ちも、引き止めたいという気持ちも。
目尻から涙が零れ、枕を少しだけ濡らした。
目を瞑ってしまうといつも、真っ暗でなんの音もしない闇の世界になる。
いつも不安で堪らないこの世界だが、彼のさっきの優しい音を思い出すと、いつもより安心して眠ることが出来た。
その夜は、彼と手を繋ぎ、歌を歌う夢を見た。