第7章 暁の蛇[善逸]
「聴かせて欲しいな。」
そう言ったであろう善逸さんに、私は先程の唄を弾いて、そして唄った。2人の非恋のお話を、この娘さんの気持ちを、語って聞かせるように。
弾く度に、この2人の幸せを願わずにはいられなくなる。結ばれて欲しい。別々に幸せになるのでも良い。とにかく、幸せに。
唄が終わると善逸さんは拍手をして、それからぱくぱくと何か喋った。
「君からはいつも、祈るような音がする」
口から読み取った言葉だけれどどういう意味なのか分からなくて、私は少しきょとんとした。
「やさしいって、ことだよ。」
善逸さんは、笑いながらそう言う。
優しいのは貴方の方なのに、なんて思ったが口には出せなかった。
それから善逸さんは、三味線の稽古をしてくれた。
耳が良い彼に音を聴いてもらって、変な音が出ているところはひとつずつ、直してもらう。
優しく丁寧に教えてくれるものだから、三味線の稽古を嫌になることはきっとこれから先もずっとないと思う。
最後の方は、私の三味線の音に合わせて善逸さんや善逸さんの雀さんが踊ったり、歌ったりしていた。
善逸さんは踊りながら私に手を差し伸べてくれて、私に西洋の踊りを少しだけ教えてくれた。
三味線の音すらも無くなってしまっていたはずだけれど、それでも2人(と1羽)で、楽しく踊り続けた。
夢のように楽しくて、私はこんな時間がずっと続けばいいのにと、思った。
「善逸さん。お願いがあって」
三味線を片付けたあと、私は彼にお願いした。
少し、思い切ったお願いだ。
「私の耳を、塞いではくれませんか、」
私がそう言うと、善逸さんは不思議そうに首を傾けて、「どうして」と口を動かした。
「聴きたくて。」
彼は少し驚いた顔をしていた。それから小さく頷くと、真っ赤に照れた表情で私の耳元に手を伸ばした。
ゆっくり、耳が塞がれていった。