第7章 暁の蛇[善逸]
「うん、いいよぉ。」
彼は確かにそう言った。
私が頭の中でその言葉を反芻したら、頬がニンマリ吊り上がった。
でもだめだめ、藤の家紋の家の娘ですもの。
しなきゃいけないことがある。
「あ、そのまえに。ご飯です。お部屋に、行って待っててください。」
善逸さんはまたにこにこ笑って大きくうなずいた。心から幸せだっていう善逸さんの笑顔が、好きだ。
私はその笑顔に満足して笑顔になって。
「あっ!」
それからはっと、台所に行かなきゃと慌てて駆けた。
準備をまだ、なんにもしてない。
にぼしに大根、それからさつまいも。あと、秋刀魚三本、卯の花、それから梅干し。いま台所にあるのはそれだけ。あともう少しあるけれど、明日の朝ごはん用だ。
なんにしようか。
まずはお味噌汁は欠かせない。
大根も入れなくちゃ。
家には質素なモノしかないけれど、善逸さんはウナギとか好きだから、豪勢(にみえるもの)にしなくちゃ。
そうだ、こうしよう。
まず、さんまを三枚におろして、そこに、梅干しをつぶして作ったたれをつけて。
隠しておいた卵と冷水をまぜて、そこにまたまた大切にとっておいた小麦粉を混ぜて。
衣にさんまをくぐらせて、本当に大切な時のためにとっておいた油で揚げて。
この家でできる最大級のおもてなし。
ついでにお芋さんも揚げちゃおうかな。
そうそう、卯の花も煮なくちゃ。
砂糖と醤油とニンジンさんを煮てから卯の花を鍋の中にいれて、またぐつぐつ煮れば完成。
こうやってえっちらおっちら作ったおかずは、本当に豪勢なものになった。
ご飯もなかなかうまい具合に炊けて、善逸さんに美味しいご飯を用意できたって、顔が少し緩んで、
それから、少し、寂しくなった。
もしこれが、最後のご飯になったら。
手が一瞬、止まった。
だめだ、なに縁起でもないこと考えてるんだ。だめ、考えちゃ、考えるな、こんなこと。
こんなことではいけないと自分のほっぺたをくっと抓って、自分を叱っておいた。