第7章 暁の蛇[善逸]
今日の夕飯はなんにしよう。
お給金はまだ貰えていないし、家にはにぼしに大根、それからさつまいも。今日買ったのは秋刀魚三本、卯の花、それから梅干し。
うむむむ。
指に顎をのせ、うんうんと唸りながら私は歩く。
魚屋さんが今日もにこにこ笑ってる。
八百屋さんの前では近所のおばさんが今日も真剣に大根を眺めている。
うん、今日もいつもとおんなしだ。
それから私は、買い物用のカゴを腕にかけて、ルンルンと家へ向かった。ルンルンしてた方が、楽しい。
洋服を着ている人を見ては心を弾ませたり、落ちている綺麗な石を拾ったり。
幼い時私はよく、能天気だと言われていた。
今は、どうだろう。
そーでもないんじゃないかな。
“藤の花の家紋”の暖簾をくぐって、ただいまを言う。
それが、私の普通。
それが、私の日常。
その日常を守るのが、私の役目。
今日は私以外、この家にはいない。父さんと母さんはお出かけだ。
でも、いつ急な来客があるか分からないから、ちゃんと準備しておかないと。だって、藤の家紋の家だもの。
台所に立ってふうとひと息。
さぁて、夜ご飯の準備だわ。
そう気合を入れてすぐだった。
「ひゃあっ!」
風に驚いて顔をあげれば、目の前に小さなすずめがパタパタと飛び回っていた。
この子は知ってる。
確か、あの人の!
「あっ!」
私は慌てて玄関に駆け出した。
「あが、つまっ!善逸さん!!」
たんぽぽみたいな髪の毛に、変な髪型。
やっぱりだ。
その人が、玄関先に立っている。
思わずへへへっと顔がにやけてしまう。
私は彼に、惚れている。
「また、三味線のお稽古、つけてくれるんでしょうか。」
耳がとても良い彼は、私にいつも三味線の稽古をつけてくれる。楽しくて、私は彼が大好きなのだ。
彼を見る私の目は、どうだっただろう。
バレバレなんじゃ、ないかな。
彼はにへっとだらしなーく笑った。
うん、いいよと、彼の口が動いた気がする。