第6章 転がる岩、君に朝が降る[帝統]
その日、私は2つ目のサークル、ソフトボールクラブをドロップアウトした。
その日は家を出るまでは良い日だった。いや、訂正しよう。家を出てから先輩に会うまでは素晴らしい一日だったのだ。
こうやっておめかしした私を、先輩は可愛いと言ってくれるだろうか、魅力的と言ってくれるだろうか。それだけで頭がいっぱいで、私はニマニマと緩んだ顔のままサークルへと向かった。
しかし、そこで見た先輩はどうだろう。
それはそれは小柄で可憐な女の子を横に連れ、時折手を繋いだり頭を撫でたりしていた。
要するに、率直に、平たく、所はばからず、大方の予想通り、その子は先輩の、彼女であった。
愕然とする私に気がついた彼は、いつもの通りとととっと近寄って来てくれては気さくに話しかけてくれた。
「元気そうだね!紹介してなかったけど、アイツ俺の彼女なんだ!」
あ、あいつ呼び!
「まぁ生意気なとこもあるけど可愛いやつなんだよ。」
か、かわいいやつ!?
「悪友?というか親友だったんだけど告白されてさ!」
告白!?じゃあ私が告白しても可能性はあったのか!?
「君も、彼氏と上手くやれよ!」
か、彼氏ぃぃぃいいい!!?
その殆どは声に出ることはなく、餌を欲しがる池の鯉の如く口をパクパクさせていた。掠れ声でようやく出たのは、「かれしは、いません。」の一言だった。なんと虚しいことか。
虚しくて、ソフトボールなんてやる気になれず、私は体調が悪いと嘘をつき、走ってシブヤの街に紛れた。
わざと治安の悪そうな道を進み、やっすいやっすいバーに入り、カクテルやらウイスキーやら飲み漁り、気を紛らわせた。悪酔いをし、知らない人にダル絡みし、そして気がついたらサークルのグループを抜けていた。
「私の、キャンパスライフぅ……」
という言葉を、繰り返し言っていたらしいが覚えていない。
なんとかお金を払って店を出ると、もう深夜であった。治安の悪そうな道ではあったが、悪漢のような男もいないし、幽霊もいないし。
ぐらんぐらんと私は揺れながら、時折、ばかやろーっと叫びながら帰路を辿った。
そこから先は、覚えていない。