第6章 転がる岩、君に朝が降る[帝統]
「うー……。もう!私はこれからサークルに行くから、早くでてって!」
二日酔いでガンガンする頭を抑えつつ、抱えられた一升瓶を取り上げ、寝っ転がっていた帝統の頭を瓶でかるーくぶった。なかなかいい音がした。
「に゛ゃー!!?」
「だから!サークルいくの!」
「はぁー?」
「憧れの先輩がいるサークルなんだ。絶対遅刻したくない。」
散らばった缶やら瓶やらを整理しながら、生活が最低限のできる場所を確保していく。グダリとダラける妖怪ぬらりひょんは、気分の悪そうな顔をしながらこちらを睨んでくる。
「行くなよ……頭いてぇし。」
「私の心に残された唯一の薔薇色へのきっぷ……。叶えたい恋なんだ。ちょっとは協力してよ!」
「んー、何いってんかよくわかんねぇけど、取り敢えず行くな。」
「帝統の為に大切な恋心を棒に振ってたまるか!」
ガラリと窓を開け、酒臭い部屋を換気する。寒さに妖怪がに゛ゃあと変な悲鳴をあげたがそれも無視だ。
「おーいー。」
「はなせー!こんの淋しがりやさんめ!まだ酔ってるな!?」
「いーくーなーって。」
足元に絡まりつく妖怪はどれだけ振り払っても振り払ってもくっついてくる。こいつ、私を全力で駄目にする気だ!
「私は行く、何としてでも行く!帝統は賭場でもパチンコでも行ってろ!」
「賭場…パチンコ……」
スマートフォンを確認すれば、今日はよろしくと先輩からの連絡が入っていた。絶対行かねば。こいつを振り切って行かねば!
「私は行く!」
「お前が行くなら俺も出る。」
「うむよろしい、酔いをさましてきなさい。」
私は必死になって「ナチュラルメイク」を施し、最大級のオシャレをし、イヤリングもつけた。横からちゃちゃをいれる妖怪は無視だ。失礼なこと言った場合は一発パンチしたが。
「なぁ、そんなにめかしこんで誰に会うんだよ。」
「憧れの先輩!」
先輩からの連絡(サークルのグループに来るものではあるが先輩からの連絡と言えば先輩からの連絡なのだ。)を見る度にんまりと頬が緩む。そんな緩んだ頬を見て、帝統がまた失礼なことを言うもんだから彼の水虫スリッパで引っぱたいておいた。
「よし行くぞ!」
「俺も一発当てるぞー!」
「「おー!」」
玄関先でふたりして円陣を組んだ。ここだけみるとなかなかいい友だちだな、とどこかで思った。