第6章 転がる岩、君に朝が降る[帝統]
数日すると、怒りは少々和らいだ。
有栖川帝統という男への不信感は拭えないものの、1回賭場で勝ったからとラーメンを奢ってもらったことで怒りはけっこう冷めたし。
その日はやっすくて美味しい屋台のラーメンを食べた後、家に帰って一緒にアルコールをとった。
「なんで、いっつも、めいわく、かけるの!」
「悪いとは思ってる!がな!なかなか賭け事はやめらんねぇんだ!」
「ひととしてのほこりはないのか!あとくさい!」
酷く心地よい酔いで、あっという間にめれんな状態になった私は、今までの怒りやら思ったことを全部吐き出した。
「しゃっきんができたんだぞ、わたし、しょうがくきんもかえすのに!」
「ちゃんと返すから安心しろー!明日も朝イチで賭場に行ってだなぁ!」
「うるひゃい!ばか!」
帝統の方もなかなかの酔いであり、2人して真っ赤な顔をしながら不毛な討論を続けた。
「どうしてこんなにつきまとうんだ!」
「言っただろ!俺なりの愛だ!」
「そんなきっしょいものいらん!」
「きっしょいだと!?」
盛り上がりを見せた酔いだったが、次第に酔いは静かなものに変わっていった。元来私は絡み酒というか、酔ったら泣き上戸になるような気質だったらしい。
「こんな、お酒の、のみかたより、ひっく憧れの先輩と、ひっく」
「おい見てみろあれ……ちょきんばこだ。」
「おしゃれなバーで、ふたりで、ひっく、ブランデーやウイスキーをのんで、いいかんじになって、」
「い、いぶし銀……」
「はなしをきけぇ!」
「怒んなよォ」
「くっつくなー!この寂しがりやさんめ!」
「なぁあ!げんたろーんち行った時はなんであんな大人しかったんだよぉ!猫かぶりやがって!俺はぁ!」
「しらーん!」
相当地獄絵図だったろうな、と翌日の朝の風景を見て推察した。酔って話した会話など何一つ覚えていなかった。とりあえず覚えていたのは私がつらつらと文句を言い続けていたこと、それから、
「干してんの見たけどお前ん下着色気ねぇからもっといいの買ったらどうだ!」
というデリカシーゼロの帝統の言葉だけであった。流石にあの時は一瞬酔いが覚めた。地獄に送り返してやろうかと思った。今でも怒っている。
地べたで一升瓶を抱えて眠る彼をつんつんとつつき、昨日の言葉は絶対に許さないと少し爪を立てた。