第6章 転がる岩、君に朝が降る[帝統]
シブヤの街を怒りながら歩く。
なんであんなのと関わってしまったんだ!
やっぱり地獄からの使者だった!悪魔、月の裏の住人で妖怪ぬらりひょんで!およそ褒めるところがまるで無い!人の名前でサラ金に借金するような男!
想像するだけでも戦慄して止まらないのにそれがまさか現実だなんて!そして今隣にいるなんて!!
「なぁ、悪いって思ってるって。お前には迷惑かけないようにするから!」
「うるさい!借金全部返すまで話なんて聞かない!もう帝統はちょっとも知らない人だ!」
「そんな事言うなよー!」
そう言うと帝統は往来なのに卑しく擦り寄ってきた。やっぱり野良猫かな。いや野良猫以下だ!くっさいし!
「くっつくなー!この寂しがりやさんめ!」
「なぁ!俺ら友達だろー!」
「うるっさーい!」
プンスカ肩をいからせて歩く。こんなに怒ったのは久しぶりだ。
前に怒ったのはあのときだ。帝統が水虫のくせに私の新品の可愛いゾウさんスリッパを履いた時。それを思い出してしまうと、私の怒りはほぼあの男のせいなのかとまた怒りがふつふつ湧き上がってくる。
「ちゃんと借金は返すからー!俺たち親友だろー?」
「知らん!そんなわけない!」
ああ、夢野幻太郎先生は格好良かった。大層変な人ではあったけれど、少なくとも勝手に人の名を使って借金するようなことは無かった。大人っぽいし。
「もう!なんで私にそんなに付きまとう!」
「俺なりの愛だ!幻太郎がさっき言ってた!俺たちは運命の黒い糸で結ばれているんだと!」
「そんな腐ったもんいらーん!」
ああ、もっとカッコイイ人が知り合いだったら!
こんな風に気兼ねなく話せるのが、あの憧れの先輩だったらどれだけよかっただろう。私が絶賛片想い中のあの人は、大層素敵で格好良くって。
話が上手で面白く、優しくて、賢くて。そして何より勝手に人の名を使って借金などしない人なのだ!
「友情をとりもどしたいならまず借金を何とかして!」
「分かった!じゃあ元手をくれ!倍にしてきてやる。」
「やっぱり手の施しようがないクズだ帝統は!」
そんな怒りの中家に帰り、その日は帝統の顔にキャベツをぶちまけた。
「キャベツ食べてろ芋虫!」
怒りは留まるところを知らなかった。