第6章 転がる岩、君に朝が降る[帝統]
「なぁ、お前幻太郎のファンなのか?」
「へ?」
あくる朝の事。アルバイトも無ければ大学もない、ダラけるには最適な日に彼は、私の小さな本棚を触りながら告げた。
「ファンというか、うん。好きな作家さん、というか。」
「なぁるほどな。」
「またなんか考えて…もしかして私の愛読書達をも賭けに出すつもり?この賭ケグルイ!」
「なるほどその手が…ってんなことしねぇよ!」
真症賭ケグルイであるコイツのノリツッコミは、ノリツッコミと言えるのか。多分一瞬本気でやろうと思っただろう。このう、許せん。
「いや、夢野幻太郎って、知り合いだからさ。」
「……嘘だ。」
「いや知らねーの!?ヒプノシスマイクのディビジョンラップバトルとか!」
話には聞いたことがある。
なんか、マイクを使ってあれやこれやすることによってあれやこれやいろいろ起きて、あれやこれやで今人気で話題なやつだ。
あれ、帝統出てるの?
「なんか、えっと、マイクであれやこれやの?」
「んだその雑な説明は!」
「だって、わかんないんだもん。私は大学で単位を取ることとサークルと人間関係を円滑にする事でいっぱいいっぱいで…。」
「あ、なんか、わりぃ…。頑張ってんだな……。」
「帝統に可哀想がられたー!」
帝統が言うには、その大会に参加する際のチームに、なんと私が好きな作家さん、夢野幻太郎さんが居るらしいのだ。
いつも世話になってるからと、なんとも嘘っぽい言葉で、彼は夢野幻太郎さんに会わせてやると私を半ば強引に家から連れ出した。
「幻太郎は良い奴なんだぞー!金かしてくれるしな!」
「それ本当だったらとんでもない事だよ。嘘であって欲しい。」
「俺は嘘つかないぞ!」
「胸を張って言うことじゃない!」
軽口を叩きながらシブヤの街を歩く。
大学に入るために上京したものの、シブヤの街には未だ慣れない。なんか雑多としていて、色んな物がごちゃまぜの騒がしい街、という印象。
そんな街をいつもの通りと言わんばかりに飄々と歩く帝統をみて初めて見直した。少しは頼りになるみたい。
知らない路地裏を抜けて、治安の悪そうな道をこえ、全く知らない場所に出た。
帝統は野良犬よりかは野良猫っぽいかもしれない。
そんなことを思いながら彼についてある建物に入った。