第6章 転がる岩、君に朝が降る[帝統]
「幻太郎ー!お前のファン連れてきたぞ!」
「お邪魔、します…」
安いボロアパートの私の家より格段に広い部屋だった。
廊下を抜けてリビングのような所に辿り着くと、亜麻色の髪の書生のような格好の男の人がいた。
「ユメノ、ゲンタロ?小生はそのようなけったいな名ではない。というか、貴方がたはどなたでしょう?」
「……不法侵入…?」
「あー!!?なんだよげんたろー!こんな時になんでそんな嘘つくんだよ!」
目の前の和風の人はオヨヨと口元を隠しながら訝しげな目をこちらに向けている。でも、見覚えがある。小説の著者近影で見たことある。多分、夢野幻太郎さん本人、だと思う。
「あ、えっと、とりあえず、ごめんなさい…?」
「なんで謝んだよ!」
「いいのですよ。ごめんなさいが言えるのはいいことです。」
「受け入れんのかよ!」
この人は、大層変な人らしい。
ファーストコンタクトで分かった。帝統とのワーストコンタクトよかマシだけれど。
「それで…えっと、」
「私、本当の名を有栖川らむだと申します。」
「あらま。」
「あらま、じゃねー!」
「帝統の生き別れの兄です。」
「ありゃりゃそうなの。」
「ありゃりゃ、じゃねー!立ち話するおばさんか!」
この人の言葉は話半分で聞いた方がいい、リアクションするだけ無駄だぞ、と判断した私は、最低限のリアクションですませた。
「それで、僕に一体何のようで?」
「こいつ、つむぎ。幻太郎のファンらしいから連れてきた。」
隣の帝統はいつもと同じに無遠慮な声で言う。
本当に仲良しみたいだ。さっき疑った私は少し反省すべきかもしれない。
「あら、それはどうも。」
「あ、いえいえどうも…。あ、えと、読んでます…本。」
「それは素直に嬉しいです。ありがとうございます。」
「えへ、こちらこそ、素敵な作品をありがとうございます。」
ちょこっとだけれど好きな作家さんなのだ。なんだかカッコイイ人だし。上手く喋れない。元来男性と話すのには慣れてないのだ。照れてしまう。えへへ。
「それで、帝統とはどのようなご関係で?」
「へ?」
知ってるぞ。この質問をされるのは、決まって男女のアレコレのことが疑われている場合。
チラリと帝統を見上げるとつまんなそーに部屋を見回しているだけ。
ここは私が否定しなければ、と私は躍起になった。