第6章 転がる岩、君に朝が降る[帝統]
いくら家を追い出しても、彼はしつこく家に転がり込む。野良犬に懐かれてしまったみたいだ。
現在キャンパスライフも絶賛灰色なのに、こんな変なのに懐かれてしまった時には、私の景気は右肩下がり、墜落事故だ。
「おぉーい!」
今日もまたやって来た。
妖怪ぬらりひょん男め。
「腹減ってよぉ!なんか食わしてくんねぇ?」
「現在留守にしております。御用がある場合はピーという音の後に」
「いるじゃねぇか!!開けろぉー!」
「給料日前なのにー!!」
このままだとずっと玄関前に居座る。
経験談だ。一晩無視し続けたところ、お隣さんが怒鳴り込んできてめっちゃ怒られたことがある。あの時は心がキュッとなった。
仕方なく手に凶器を持ったあと、鍵をガチャりと開け、一つ息を吐いてからバッと扉を開ける。
今日は辛うじて服を着てる。
そこは褒めるべきかもしれない。
「よぉ!今日のメ」
「給料日前に全財産スってくるなー!」
「んぐぼぁッ!?」
今日特売で買ったキャベツ半玉(39円)を顔に投げつける。
ソフトボール投げでは毎回クラス最下位を争っていた私だったけど、今回は顔面にクリーンヒット。見事だと私は自身を褒め称えた。
これは戦争だ。
私の人間的生活を死守するための。
ある時はこのようにキャベツを顔面にぶつけ、
ある時は塩をかけて追い払った。
(結果追い払えなかった。)
帝統のほうもあの手この手で家に入ろうとした。
セールスマンのように扉に足を挟み込ませたり、美味いもん持ってきたと3秒でわかる嘘をついたり。
「知ってるか!明日世界滅亡するらしいぞ!」と誰かに嘘を吹き込まれたか知らないが大声で叫びながら家に侵入してきた時はほんとに泣きそうになった。怖かった。
およそ褒めるところのない阿呆だが、唯一の友というか、唯一私が気兼ねなく話すようになった友人となってしまった。不本意ではあるが。悪友というか宿敵というかなんというか。
一度、糸滝さんなんか彼氏と同棲してるらしいよと大学で噂されたこともあったが、ありえない。こんな妖怪のような男とそんな男女のアレコレがあってたまるか!
今日は勝ち取ったベッドの上から、野良犬のような彼を見下げ、出会わなければ私はもっと清らかだったのになと妄想しつつ、私はいつもの通り眠りについた。