第6章 転がる岩、君に朝が降る[帝統]
「こんのっ…!地獄からの使者めー!」
「地獄ぅ!?」
私がこんなふうに罵っている彼(有栖川帝統)と出会ったのは、私が1つめのサークルをやめた日だった。
当時大学1年生だった私は薔薇色のキャンパスライフを夢見て、2つほどのサークルに参加していた。
社交性を身につけるため。
そしてゆくゆくはカッコイイ彼氏をつくり、充実した生活を手に入れるため。
しかし、1個目のサークル、ソフトテニスサークルではそれを成し遂げることは出来なかった。
まず単純にテニスが下手だった。ラリーをしようにも返ってこないし、そもそもラケットにボールが当たらない。
そして、社交性を手に入れようにも会話に参加することすら叶わなかった。まず会話に参加する為の社交性を他所で身につけてくる必要があったみたい。
周りに馴染めず友達1人できなかった私は、その日サークルの長に辞めることを告げ、ひっそりドロップアウトした。
私がドロップアウトしたことに気がついた人間は何人いたのかな。考え始めると涙がチョチョぎれるのでやめにする。
そんなこんなで落ち込んでいたせいもある。
こんな変なの(持ち金も衣服も全て賭けてスる人間)を拾うなんてまともな頭ではできることじゃない。
「なんでいつも服まで賭けるの!?」
「いや、最後にこいつ賭ければよォ、負けた分取り返せると、思ってよォ…」
「このアホ!アホ!帝統はアホをクズでぐるぐる巻きにしたようなバカだ!」
「どんなバカだよ!」
毎回、この男が私の家に転がり込んで来る度そんな不毛な言い合いをする。
「おーい!今日のメシなんだよー!」
「私のご飯!」
私のなけなしのご飯をたかられ、
「風呂おっさきー!」
「家主より先に勝手に入るなー!!」
風呂に勝手に入られ、
「タオル借りたぜー!」
「洗いたてなのに!?」
洗いたてタオルも奪われ、
「どっちがベッド使うか賭けようぜ!」
「誰がそんな損100の賭けするか!!」
あろう事か寝床までも奪われかける。
地獄の野郎だ。
傲慢で強欲で怠惰で誇りのかけらもない、アホ。
あの時帝統を拾っていなければ、私のキャンパスライフはもっと薔薇色だったはず。もしかしたらカッコイイ彼氏だって居たかも。
そんなもしもを考えながら、私は奪われたベッドを悲しく見つめながら枕を濡らすのだった。