第6章 転がる岩、君に朝が降る[帝統]
全ての出来事は唐突で、不思議なものである。
「うっ……」
私は今、未だかつて無いほど究極的な選択を強いられている。
高校選びも大学選びもそこまで悩まなかった私にとって、これは人生で最大で最強の難問なのかもしれない。
目の前のゴミの山に倒れている彼は、服をほとんど引っペ剥がされたのかパンツ一丁で、今にも野垂れ死にしそうな勢いだ。時折「んがっ」と珍妙な呻き声をあげるので、生きている、ということは分かるんだけど……。
この人に関わるか関わらないか、介抱をするかしないかで今、脳内は重大な会議の真っ最中なのである。
こんなふうに道端で野垂れ死にかかっているような人と関わってもろくなことが無い。もしかしたら延々と続く腐れ縁となってしまう可能性すらある。
しかし、放って置いてここで野垂れ死にでもされたらどうなってしまうんだろう。近所のゴミ捨て場で死体が出たとなっては住みにくくなるし、あの時助けていればよかったと、こんな人のために1週間から1ヶ月頭を抱えることになるかもしれない。
一生の腐れ縁か、はたまた1ヶ月頭を抱えるか。
期間だけを考えるならば圧倒的に後者を選びたい。
だが、しかし。
人の命って、重たい。
「あの、あのぅ……生きて、いらっしゃいますでしょうか…?」
あぁ、私のこの時の選択は、正しかったのかな。
「んがっ…あ、ぁあ?」
「い、生きてますか?えっと…ちゃんと家まで、帰れますか?警察、呼びます?」
「けっ!?警察は勘弁してくれ!!」
やっぱり間違えだったかも。
この人、追われてるの?それとも前科者?
私が分かりやすく顔を歪めていると、その人はまた必死に何かを訴え始めた。
「おいっ!あのっ!頼みがある!ます!」
「ひっ、」
「メシ食わしてください!そして金貸してください!!」
「……は?」
これが私と有栖川帝統とのファーストコンタクトだった。
いつか読んだ本で見た言葉でそっくりそのまま表現するとこう。
この有栖川帝統との、ファーストコンタクトであり、ワーストコンタクトなのであった。