第4章 こんにちは またあした [瀬呂]
「あのね、挨拶、いっつも、しようと思うんだけどね、おはようって、言っていいのかなって、いっつも、いつも、」
「へぇ?」
「話しかけても、いいのかなって、なる、から。」
「えー、俺はいっつもウェルカムなのになぁ。」
「音楽、聴い、てるし。」
瀬呂くんは飄々と、ケラケラと、笑ってる。
恋をして初めて、悔しい。
なんで私ばっかり、息できないんだ、顔熱いんだって。
「あの、朝ね、おはようって、言ってくれるのが、毎日、すごく、て。毎日すごく、嬉しくて。それでそれで、1日、頑張る、ってるの。」
「え、ま、じぃ…?」
「あ。…あれ?」
飄々顔じゃなくなってる。
瀬呂くんの顔が、赤い。
うわぁ、レアだぁ。
「あかい…レアぁ…。」
「言うな言うな、分かってから!」
必死に顔を隠そうとする瀬呂くんをつむぎは、ぼーっと見詰めた。
なんで赤いのかな、なんて思っただけでつむぎの脳は停止する。
考えるのが、恥ずかしいから。
「なんか、あれだ。アレで。」
「あれ?」
飄々顔じゃない瀬呂くんはレアで、つむぎは目に焼き付けようと必死になっていた。すげえ、しゃ、写真撮りたい!
つむぎがハッとリュックからスマホを取り出し構えると、瀬呂くんはもっと狼狽えた。
「いや、撮んな撮んな!」
「うぇへへへ…はっ、」
瀬呂くんの前でキャラ崩壊してしまったつむぎは、ガビーンっとショックを受けた。うわぁ、キモい笑い方しちゃった。
落ち込みながらスマホを仕舞おうとすると、最寄り駅に着いたアナウンスが。
「え、なんだ、ま、まって」
もたもたとリュックを背負い直していると、腕を誰かが引いてくれて。まぁ誰かなんて、当たり前に彼なんだけど。
ぐって、強め。
強めに。
転びそうになったつむぎを受け止めたのも、当たり前に、彼だ。
「すーぐ調子乗っからなぁ。」
「わぁっ、わ、なん、」
見あげれば、笑ってる彼がいた。
顔の赤さが、まだ少し、残っている。
ちけぇ。
「なんだこの人ぉぉおお!」
つむぎは脳が痺れてパンクして、絶叫した。