第4章 こんにちは またあした [瀬呂]
ピッという音をたて、つむぎはどきどきと改札を抜ける。
今日は、高校の最寄り駅の、ひとつ隣の駅にした。
つむぎは調子に乗っていた。
彼に会えるかな、なんて理由でこっちにきたのだ。
一歩間違えたらストーカー行為で、それにはっと気がついたのは改札を抜けたあとだった。
もし会っても、やべぇ子って、思われるかも。
言い訳を、考えなければ。
そうこう考えているうちに、彼の話し声が聞こえてくる。
友達と、話している。楽しそうな、笑い声。
「バカだなぁ」
「なんとでも言ってくれよぉ、今日の俺はダメだ。」
瀬呂くんの隣には、なんか、金髪で派手めの男の子と、なんか髪赤い男の子、それから、ピンクい髪の、女の子。
つむぎははっと息を飲み、1歩身をひいて、思わず隠れた。
みんな、見たことある。
テレビで。雄英の人たちだ。
高校の、お友達だ。
仲良し、の子。
途端に、瀬呂くんとの繋がりが弱いものに思えて、つむぎは苦しくなった。
それで、最寄り駅でもないのにということが、じくじく胸を締め付ける。
私は駅で、しかも朝だけ、偶然会うだけの、ただの知り合い。なんて希薄な関係なんだ。こーんなふうにわざわざ駅まで変えちゃって。
あの女の子もしかして、彼女…。
うぁぁ、可愛い。
「これが…恋の…痛み。」
調子乗るんじゃなかったと、つむぎは後悔した。
階段の影で、小さくなろうとした。
隠れてしまったのは、恥ずかしかったから。
「はぁ…」
今月一の、ため息。
だった。
「お、やっぱつむぎじゃん。なにしてんの?つーか何でここに?」
「ほやっ!?」
その声は、後ろから。
優しくて、つむぎの好きな。
その声は、彼ので。
彼は、つむぎをみつけて、来てくれた、みたい。
つむぎは驚いて変な声をあげてしまった。
でも脳内では、それじゃなくて、
それどころじゃなくて。
な、名前呼びやぁーーー!!
でいっぱい。
さっきまでの痛みは全部、消えてった。
本当に、つむぎ自身もびっくりするくらい。
「にゃ、んも…」
「また噛んでる。」
目を大きく見開いて、口を鯉みたいにぱくぱくして、つむぎは頬を真っ赤にした。
恋って、忙しい。
なんて思いながら。