第4章 こんにちは またあした [瀬呂]
これから別に、会話が弾むわけではない。
それでも、イヤホンを外してくれる彼は素敵だ、とつむぎは毎度心を高鳴らせる。
あまりの幸せに鼻が鳴りそうになった。
いかん。
雄英高校の、瀬呂くん。
頭の中で名前呼んじゃった。
うひひひっ。
つむぎは自分を必死におさえつつ、ちらっと彼を覗き込む。髪の毛サラサラだ。肩につくかつかないかくらい。鬼のキューティクル。
うわ、すごい、うわ、うわあぁ。
なんか息できなくなる、ここ酸素薄い、とつむぎは深呼吸をした。すぅぅぅぅ、はぁぁぁぁ。
「また謎の動き。」
「ふぉぇっ」
急に話しかけられて変な声出て、また彼が笑う。恥ずかしすぎる。
「ジャンプして電車乗るとことか、急に深呼吸するとことか。」
「ジャンプなんてしてる?」
「まじか、自覚なしかよ。」
けらけら笑ってる。笑顔が見れるのはうれしいけど、やっぱりなんか複雑である。馬鹿だって思われてるんじゃなかろうか。たぶん思われてるんだろうな。
つむぎがちょっぴり落ち込んでいる間に電車が来て、つむぎたちは同じ車両に乗り込む。
あ、ほんとにジャンプしてた。
つむぎは車両のにおいをかぎながら、またにへっと笑った。
知り合ったのも、この電車のなか。
知り合った、だって。やだもうっ。
「んふっ」
なんて勝手に考え照れると、鼻が鳴った。反省。
「なんか、いつも幸せそうでいいな。」
「んぐっ」
聞かれてた。
もっと反省。
つむぎは(五秒くらい下を向く)反省を終え、彼を見上げる。見上げるだって、へへっ、近い。
「そうかな。」
「いつも笑ってね?」
「そうでもないにょ。」
盛大に噛んだ。
つむぎが気づく前に瀬呂は顔を覆い、震えだす。
「にょて…いや、くっ、天才か…」
顔を真っ赤にして笑ってる。車内で大声出さないようにこらえてる。いや、そんなに面白い?
やっぱ笑顔にできるのはいいけど、恥ずかしいし、ムッとする。複雑だ。
「わりぃわりぃ、てか表情分かりやすっ」
「む」
分かりやすい頬をムニムニして、もう一度彼に向き合う。へへ、やっぱ近い。
瀬呂の降りる駅は、つむぎが降りる駅のいっこ手前。
それまでつむぎはずっと、浮かれ続ける。
うぇへへ。