第4章 こんにちは またあした [瀬呂]
おはよう、って響きが好きだ。
なんか、柔らかい感じがする。
“お”、とか、“は”、とか。とくに柔らかい。
つむぎはそんなことを思いながら歩いている。
今日の私は機嫌が良い。
だって今日、お天気だから。
なんてふわふわ浮かべながらつむぎはてくてく歩き続ける。
まぁ、それ以外にも理由があるんだけど。
青空は良い。
なんか明るいし、見栄えも良し。インスタやってないけどなんかインスタ映えだ。
歩くのもなんとなく好き。
なんか右左と交互に足を出すだけで、景色が変わってくんだもん。面白い。
つむぎがそんなこと考えながら歩いていたら、屋根が見えてきた。いつもの最寄り駅。徒歩10分。
近くになればなるほど、歩くのが楽しくなって、電車のがガタンゴトンが聞こえたらもっと、つむぎは浮足立つ。
リュックサックから定期券をえっちらおっちら取り出して、改札の四角いところにピッとかざす。
ピッて音も好き!
もうすぐ彼に、会える音。
「んふふっ」
おっと、幸せが漏れてしまった。いけないいけない。
この角を曲がったら、
この階段を下りたら、きっと……
いたっ。
つむぎは彼を見ると幸せになる。
大好きなバナナジュースを一気飲みしたときみたいな幸福。
黄色い線の内側で、音楽を聴いている彼。イヤホンで聴いてる。ひょろっと背が高くて、黒い髪が少しだけ長くて。
「んひひっ」
おっと、また漏れちゃった
でも、イヤホンしてるからセーフ。
有名な、すごい高校の制服。
そうそう、雄英高校。
似合ってる。へっへへ。
つむぎは浮かれたまま、彼の隣へ歩を進める。やっぱり隣は恥ずかしいから、ちょっぴり後ろ。
さあ、その背中を、と意気込むも、つむぎはしり込みをする。
いきなり話しかけるのはどうなんだ。
スマホ見てるし、音楽聴いてるし。
それを邪魔してあいさつするくらい仲いいかと聞かれればそれは。
こうやって考えすぎるのも、つむぎの悪い癖だ。
「お、はよ。」
「おっ、ひゃようっ。」
それでいつも、先を越されるのだ。先を越されるし、噛むし。それも悪い癖。
それでもつむぎは幸せになる。
お天気よりも歩くよりも、つむぎは幸せになれる。