第1章 Reflexion,Allegretto,You [緑谷]
きら
彼の動かすシャープペンシルが夕日を反射して輝く。
そのこがね色は揺れて、揺れて
私の夏服を、照らした。
「糸滝さん…本当にいいの?…ごめんね。」
「ううん。いいの。私がす……」
出そうになった言葉を、なぜだか私は飲み込んだ。
別に言ってもいい言葉だと、思ったんだけど。
「…すごく、暇だったからで。」
「そっか…。ごめんね。」
そんなふうにふつりと会話が途絶えれば、彼の目は日誌へと戻る。
私はただ、紙上に踊る彼の文字を見て、それから自身のつま先に目を落とした。
これは、なんだろう。
わからなかったこの気持ちが、靄の中から姿を表してきたみたいだ。
そんな不思議な感覚がする。
不思議だけどでも、
とても心地良い。
この心地良さを、もっと感じたい。
そう思った私の口は、ぽつりぽつりとまた、動いていく。
「緑谷くんは、コーヒー飲める?」
「へっ?コーヒー?」
「さっき友達と話してたの。」
「…うん。飲めるっちゃあ飲める、かな。」
「そうなんだ。私先越されちゃった。」
「糸滝さんは飲めないの?」
「うん、だって苦いんだもん。」
「そりゃあコーヒーは苦いよ。」
なんだか、中身のあるようなないような、そんな話をした。
彼に目を戻すと、彼はヘラりと笑っていた。
そんな会話が、その笑顔が、私のこの靄の向こうの感情を露わにしていく。
シャープペンシルの光は、まだ私を照らしている。
まるで心のありかを、照らすみたいに。