• テキストサイズ

lovesong birds【短編集】

第1章 Reflexion,Allegretto,You [緑谷]




きら


彼の動かすシャープペンシルが夕日を反射して輝く。

そのこがね色は揺れて、揺れて
私の夏服を、照らした。


「糸滝さん…本当にいいの?…ごめんね。」

「ううん。いいの。私がす……」


出そうになった言葉を、なぜだか私は飲み込んだ。
別に言ってもいい言葉だと、思ったんだけど。


「…すごく、暇だったからで。」

「そっか…。ごめんね。」


そんなふうにふつりと会話が途絶えれば、彼の目は日誌へと戻る。


私はただ、紙上に踊る彼の文字を見て、それから自身のつま先に目を落とした。


これは、なんだろう。


わからなかったこの気持ちが、靄の中から姿を表してきたみたいだ。

そんな不思議な感覚がする。
不思議だけどでも、


とても心地良い。

この心地良さを、もっと感じたい。


そう思った私の口は、ぽつりぽつりとまた、動いていく。


「緑谷くんは、コーヒー飲める?」


「へっ?コーヒー?」


「さっき友達と話してたの。」


「…うん。飲めるっちゃあ飲める、かな。」


「そうなんだ。私先越されちゃった。」


「糸滝さんは飲めないの?」


「うん、だって苦いんだもん。」


「そりゃあコーヒーは苦いよ。」



なんだか、中身のあるようなないような、そんな話をした。

彼に目を戻すと、彼はヘラりと笑っていた。


そんな会話が、その笑顔が、私のこの靄の向こうの感情を露わにしていく。


シャープペンシルの光は、まだ私を照らしている。

まるで心のありかを、照らすみたいに。


/ 127ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp