第3章 或る街の群青 [死柄木]
次の日の空は明るかった。
『お天気は徐々に回復し、今日の午後には青空が見えるでしょう。』
傘を差して俺は歩く。
青空が、ちらほら見えて、そこからまばゆい光が見えている。
「あ、傘。今日、傘いるんですか?」
空の下に、そいつはいた。
「なんだ、いるのか。」
「なんだそりゃあ。」
そいつの姿は昨日よりずっとずっと薄く、今にも消えそうになっていた。
「死んだらもう、何にも影響を与えられないと思ってた。」
「違ったな。」
迷うことなく俺は言う。
青空の元に雨が降っている。天泣と言うんだったか。
俺は傘を投げ出し、雨のもとへ立った。
少し濡れるが、まあいい。
「私、雨って好きです。」
「知ってる。」
「雨も、川も、海も、雲も。ぜーんぶ、同じなんですよ。知ってました?」
「ああ、知ってる。」
「へへ」
だから好き。
そう言って笑っている。
じゃあ、
そいつの薄まる身体も、同じもの。
「もうすぐやみますね。」
「あぁ。そうだな、つむぎ。」
つむぎは瞳を大きく見開いて、それから嬉しそうに笑った。
「そういえば、あなたの名前、」
「死柄木、弔。」
「とむ、ら…」
「弔う…。死を悲しみ、別れを告げること…。」
今、この時のように。
思い出すのは、自分の一番、深くの記憶。
初めて許しをもらった、幼い記憶。
つむぎは嬉しそうな、でも寂しげな顔をする。
「素敵な、名前ですね。」
身体がまた一段と、薄くなる。
「青空が見えますよ、弔さん。」
「あぁ。」
「私、思えて良かった。」
「え…?」
光の下に見たかった笑顔が、まだ見える。
「わたし、雨も好きだけれど、」
その、薄くなる体に手を伸ばす。
「青空も好きだ、って。」
太陽のような光がこちらに向く。
「やっぱり生きていたかった、って。」
俺の手がつむぎの手に触れる瞬間に、そいつはふわりと消えた。
太陽に充てられた水が、蒸発するみたいに。