第3章 或る街の群青 [死柄木]
空が晴れ渡っている。
洗いたてのような太陽の光に、雨の残骸がキラキラ輝く。
死柄木は青空に手を伸ばし、太陽からひさしをつくって目を覆った。
久しぶりの青空に、死柄木の周囲の歩いている人々は皆、能天気に笑っている。青空、そんなに好きかってぐらい、キラキラ笑っている。
「暑い。」
上がってきた気温に悪態をつき、死柄木は傘を拾う。
薫風で髪がなびき、前髪がめくれ上がった。
見えたのは紫の小さな花。そよそよのんきに揺れている。
死柄木は、あの花の名前は、と少し頭を回した。
「雨も、川も、海も、雲も…」
もらった言葉を反芻する。
言葉をくれた、その彼女は今、どこで何を。
考えてそれから、はぁと息をつく。
「水は…。雨も川も海も雲も、アイツも、か。それなら…」
アイツは、どこにでもいるんだな。
「……きみわりぃ。」
喉の奥にこみあげてきたものが恥ずかしくて、悪態をついた。
「やっぱし、青空っていいよ!気分が上がるよね。」
「うんうん。なんか雨だと憂鬱になる。」
通りがかった女子高生は、楽し気におしゃべりを続ける。
南、と書かれたスカートを揺らしながら、楽しそうに歩いていく。
「でもあれだって、もうすぐ梅雨だってさ。」
「えぇー、まじ?」
風がさっきよりも湿気を含んで吹いていく。
ははは、ばぁか。
なんて女子高生に悪態をつきながら、死柄木はもう一度空を見上げる。
「梅雨か。」
死柄木は、雨が楽しみだった。